理事長室

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「え?」 「これでも僕、理事長だからね。生徒が楽しめるなら僕もその力になりたいと思ったんだ。それにうちの可愛い遥ちゃんもいるしね。」 そう言ってウィンクした理事長に、俺は少しぽかんとしたあと、有難うございますと頭を下げた。 理事長は目元を緩ませながら、榊原と話す谷塚を見つめる。 「僕はね、ここの学生には自由でいて欲しいと思ってる。」 「自由、ですか。」 「そう。」 「…しかし、それは、」 あまりにも現実と違う。そう言おうとして言葉を飲み込んだ。 理事長はそんな俺に気がついたのか、困ったように眉を下げた。 「そうだね、ここを自由と言うには余りに不自由過ぎる。E組の件も、聞いているよ。苦労かけるね。」 「いえ、そんな事は。」 そう言うと、理事長は何故かうんうんと頷いて笑った。 「ふふ、遥ちゃんから聞いていた通りだ。」 「谷塚ですか?」 「うん。さっき久々に会ったら、とてもいい笑顔で笑うようになっていたから驚いたんだ。君のおかげだったんだね、有難とう。」 「…それは、違うと思います。」 俺がそういうと、理事長はきょとりとした。 谷塚は分厚い眼鏡をかけているからその顔がよく見えないはずなのに、こんなにも雰囲気が似ていると感じるのは何故だろう。 谷塚は知り合いと言っていたけど、もしかしたら親族なのかもしれない。 「それはきっと谷塚自身が、変わろうと頑張ったからだと思います。」 助けてあげるにも、手を伸ばされなければ掴むことは出来ない。 変わりたいと思った谷塚の気持ちが、きっと何より大切なのだ。
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