波乱

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波乱

噛みつかれても慣れたように動じない理事長は続けて言う。 「そうカッカしないで。それに遥ちゃん、そのヘンテコな格好のせいで苦労しているんじゃないかい?」 「そ、んな訳…!」 言い淀む谷塚に、俺はそっと口を挟む。 「外見を隠さねばならない訳があるのかと、いや、むしろその見た目が自前なのかとてっきり思っていたが、もし可能ならば外してみてもいいんじゃないか?残念なことに、人は見た目の印象も大きいからな。今の酷い状況も何とかなるかもしれない。」 勿論、これは強制じゃない。 それでも嫌だと思ったらそのままでもいい。 どんな格好をしていようとも谷塚は守るべき生徒なことには変わりないからな。 しかしそういった俺に続くように、榊原も頷く。 「私はハルがどんな姿でも、どんな見た目でも関係ないです。私が好きになったのは見た目ではなく、貴方の中身ですから。」 榊原がそう言うと、谷塚は暫し榊原を見つめて言う。 「…それは、今もですか?」 「え?」 「いえ、なんでもありません。……はぁ、分かりましたよ。ここなら前の学校にいた人達とも会わないでしょうし。」 「本当ですか!!」 「いやあの、そんな期待しないでくださいね?!これで思ったより平凡だったな…みたいな空気になったら耐えられない!むしろそうなる自信しかないのもしんどい!」 興奮したように詰め寄る榊原を押しのけて谷塚はそう叫んだ。 それからじっと見つめてくる榊原の視線に耐えかねたように俺の後ろに回り込んでくる。
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