波乱

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正直、そういう事態を予想していなかった訳では無い。 見目のいい生徒が火種となったトラブルはこの学園では腐るほどあるからだ。 それでも、谷塚が言われのない悪口で傷つけられ、暴力を振るわれたり物を盗まれたりする状況を何とかしたかったし、それよりは幾分かマシになると思っていたのだ。 が、それは甘い考えだったようだ。 お陰で谷塚はほとんど毎日のように風紀に来るようになったし、むしろ以前よりげっそりしているような気がする。 「君も苦労してるね。」 「あはは、ありがとうございます。」 笑いながらお茶を出す浅桜に、谷塚は乾いた笑いを零す。 今日も追いかけ回されたところを偶然俺が拾ってきたのだ。 追いかけ回していたのは、以前親衛隊を作りたいと俺たちの元へ来て、あえなく却下された生徒だった。 どうやら親衛隊の書類にサインをして欲しかったようだ。 浅桜はお茶を飲む谷塚を見て目を細める。 「まあ確かに、あんな格好していたのが、実はこんなにイケメンだった、なんて言われたら驚くよね。正直俺も驚いたもの。」 「済まない、谷塚。俺が変装を辞めるのを提案してしまったから。」 余計に大変な思いをしているのではないかと、申し訳なくなる。 謝る俺に、谷塚は慌てたように手を振った。 「そ、そんなことないです!俺もそろそろやめ時かなって思っていましたし、いじめは無くなりましたし!」 「まあでも、今こんな状況だと素直に喜べないだろうけれどね。追いかけ回されるのもしんどいだろう。」 「う…。」 否定できないと言う顔で黙り込む谷塚に、俺は眉を下げた。
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