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そう言うと、一旦言葉を切って俺たちの前にティーカップを置く。
明るい紅色の液体が波打つ。
そして、ワゴンの下にあったアフタヌーンティーセットも置かれた。
そして、榊原は、なぜか谷塚の隣ではなく、俺の隣に座ると続けて言った。
「だから私、ハルから卒業しようと思いまして。」
「……は?」
「恋をしたと、思っていたのです。初めてハルと出会って、キスされて、私の顔や家柄関係なく接してくれるその態度も新鮮で。」
待てよ、キスだと?初対面で?と思ったが、そう言えば谷塚は厄介な体質を持っていたのを思い出した。
ちらりと谷塚を見ると、その当時のことを思い出しているのか死んだ目をしていた。
なるほど、ぶちかましてしまったんだな。
まあそれで恋をした所まではいい。恋愛は個人の自由だし、俺の口を挟むところじゃない。
しかしなぜそこから卒業になるんだ。何を卒業するんだ??
「卒業ぉ?どういう意味だよ薫。」
それまで黙って話を聞いていた一ノ宮は、俺と同じ疑問を抱いたのか榊原に聞く。
その手は既に谷塚の腰を抱くのを諦めたのか優雅にティーカップを持っている。その姿すら様になるのだからイケメンは得だな。
「いえ、少し距離を置いて、きちんと私がハルに抱いてるこの感覚がなんなのか知りたいんです。ハルにはもう既に話していて、理解もして貰えました。」
少し寂しいですけどねと微笑む榊原の横で、谷塚は手を振っている。
「いや、俺も特に異論はないというか、むしろそっちの方が有難いと言うか…。」
「……お前も、苦労してるな。」
「あはは……。」
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