人として、風紀として 1

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「冗談。そんな泣きそうな顔すんなって。」 「してないが。」 「はいはい。んじゃ出席とるぞ。いないやつは手を上げろ〜。」 馬鹿かこいつ。 俺は呆れすぎて、半目になりながら話を聞く。なんでこんなにダラダラしたやつがS組の担任なんだ。 1番前の席に座っていた、どこかで見たことある顔をしている生徒は、恐る恐るといった様子で挙手をして言った。 「…あの、先生、いない人は声をあげられないと思いますが…。」 「あーーー、うん。じゃあもう適当に見かけないやつの名前上げてって。」 本当適当だな。 こんなので教師が勤まるとかどんな学校だよと思うが、悔しいことに担任が受け持つ数学の授業は分かりやすく、かつスピーディーだ。 名門校らしく授業の進むスピードが早いにもかかわらず、落第者がほとんど出ないのは、担任の授業がわかりやすいからだろう。 神は二物を与えたが、モラルという最も大事な一物は取り上げたんだろうな、というのが俺の認識だ。 そんな訳で緩いHRの後、入れ替わるように例のくそハゲ教頭が教室に入ってくる。 はげてはないが、うっすらとしてきた頭がなんとも物悲しい。 でも分かりやすく、楽しい授業をする先生だ。 いつもは温和な顔をしている教頭先生だが、その口元はどこか強ばっている。 「あーあ、こりゃ担任の愚痴も聞かれてたな。くっくっくっ!」 後ろで声を潜めながら爆笑する聡の笑い声が聞こえてきた。 まあいつものことと言えばいつもの事だが、多分この授業終わったら職員室で教頭からの説教コースだな。どんまい、担任。 人を呪わば穴二つだ。
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