俺の幼馴染みは吸血鬼でした。

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日が昇ってる間、俺は昔の紅葉との思い出にふける。 紅葉と出会ったのは11年前。 隣の家に、紅葉が引っ越してきたのがきったけだった。 紅葉の母の後ろで縮こまっていた紅葉に話しかけたのが始まりだった。 幼い俺の目に写った紅葉は、触れたら消えてしまいそうな儚さを持っているのに、どこか芯のある少女だった。 綺麗だな、と幼心に思ったのは今も覚えている。 「始めまして。」 「は、はじめまして」 その声は、とても可愛らしい声だった。 「……名前、聞いてもいいかな?」 勿論、名前は母さんから聞いていた。 でも、名前を紅葉自身の声で聞きたかったのだろう。 「……もみじ。 やまさともみじ、です」 「もみじちゃんかぁ。 よろしくね、もみじちゃん」 「うん。 ……あ、あの」 「ん?」 「あなたの、名前は?」 「そういえば言っていなかったね。 僕は倫太郎。 粕井倫太郎。」 「りんたろー?」 「うん、倫太郎。 紅葉ちゃんは何歳?」 「4さい」 「そっか。 僕は6歳なんだ。」 「じゃあ、りんたろーはもみじのおにいちゃんだね!」 「そうなるね。」 「りんたろーおにいちゃん!」 そう呼ばれたときの声は、今でも鮮明に覚えている。 それから、俺たちは毎日のように遊んだ。 そんなある日。 「私、いつか倫太郎お兄ちゃんのおよめさんになるの!」 紅葉が急にそんな事を言い出した。 「どうしたの?紅葉。 急にそんなこと言い出すなんて」 「だって、倫太郎お兄ちゃんとお話しすると、胸がきゅぅ、って締め付けられるような気がするの。 それでね、おかあさんに聞いたら、『それは恋だよ』って。 私、倫太郎お兄ちゃんがはじめて『こい』した相手だから。 だから、倫太郎お兄ちゃんのおよめさんになるの。 ……倫太郎お兄ちゃんは? 倫太郎お兄ちゃんは、紅葉のこと、好き?」 好きもなにも、出会った瞬間に紅葉に恋したんだ。 焦がれている時間なら圧倒的に俺のが上だ。 「もちろん。 じゃあ、僕たちは将来の夫婦だね」 「ふうふ?」 「僕たちの、お父さんやお母さんみたいな関係のことだよ」 「ふうふ……うん!紅葉と倫太郎お兄ちゃんは、ふうふになるんだね!」 「そうだね。」 そう言うと、紅葉は小指を突きだしてくる。 「じゃあ、おやくそく! 紅葉とふうふになることを、今ここでおやくそくしてください!」 「……ふふっ、うん、いいよ」 そう、将来を誓った一時。 そして、別れは突然だった。 「倫太郎お兄ちゃん。 私、引っ越す事になったんだ。」 「……は?」 「おとうさんの転勤だって。 私、嫌だよ……。 倫太郎お兄ちゃんと離ればなれになるなんて……」 そんなの、俺も嫌に決まっている。 でも、親の、しかも他人の家の決定を俺がどうにかすることなど出来るわけがない。 「……どこに、引っ越すの?」 「……北海道、だって。 ねぇ、倫太郎お兄ちゃん」 「……なんだ」 「……離ればなれになっても、会えなくなっても、それでも、紅葉のことを、好きでいてくれる?」 そう紅葉は不安そうに聞いてくる。 紅葉の中では、いまだに俺のことが好きらしい。 俺も、相変わらず紅葉だけが好きだったから、『いまだ』なんて言葉は使えないが。 だから、俺は 「当たり前だろ。 どこにいても、あり得ないくらい遠くに紅葉がいたとしても、俺は紅葉だけを想い続ける。」 「……よかった。」 「……北海道に行っても、元気でな」 「うん……」 そう言って、俺たちは別れた。 6年前の夏。 それから。 俺はここで中学、高校と学校に通い続けた。 何人もの女子に告白されたが、全部断ってきた。 俺の中は、紅葉だけが全てで、紅葉の中もきっと、俺だけが全てだと、そう信じていたから。 そして、昨晩。 俺たちは、6年ぶりの再会を果たしたのだった。 窓の外を見ると、夕日が輝いている。 もうすぐ夜。 吸血鬼の、活動する時間だ。 俺は身支度をし、家を出る。 昨日、紅葉と再会を果たした場所に。
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