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「それで?結局お前は何が聞ければ満足なんだ?そんな必死な顔で、俺から何を知りたかったんだよ、鷹臣。」
レイは明らかに怒りを抱えた微笑みで目を爛々としながら体の前で両手を組んだ。
それでも俺だって、もううやむやにするのは嫌だった。ストレートに、知りたいことを。
「お前が、俺らの前から消えた理由。ファンに何も言わずにライブをキャンセルした理由。バンドの後始末どうするつもりなのか。お前は、これからも音楽をやっていくのか。」
「はっ!はははは………」
「笑うな!」
「だって、お前、さ。後始末って、お前が一番辞める気満々じゃぁないの。」
「辞めるしか無いだろ!!俺も達哉も就職決まって、お前はよくわからず消えて、こんな中途半端な。」
「まあな、お前の終わり方はそうなんだろ。」
「せめて、解散ライブくらい……」
「はぁ?ドブくせぇ冗談言うなよ鷹臣。」
こちらを見据える目は今度こそ笑っていなくて、俺は言葉を繋げることが出来なかった。
「事実上終わったバンドの終わるための解散ライブなんて、あれほど醜悪なものがあるか?なんだお前は学級委員か?ファンを喜ばすのを議題に学級会議でもすんのかよ、馬鹿くせぇ。」
「お前な、そんな言い方は……」
「俺は、俺のためにバンドをやってた。」
「おい」
「聴いてくれる奴がいんのはありがたい。嬉しい。でもな、俺が演奏する気が無いものをむりやり聴かせるほど、客のことを舐めてねぇ。」
「そうじゃない。そうじゃないだろ!!」
「はぁ!?んだよぐちぐちうるせぇなぁ!!」
違う。違う。全然違う。レイも俺も、こんなことを話してる場合じゃない。そんなことを言いたいんじゃない。
それよりももっと言いたいこと。
俺にとって、何よりも大事だったこと。
音楽よりも、音よりも、大事だったこと。
「俺は!!……俺は。いつだか覚えてないようなライブが、お前との最後のライブだったなんて思いたくない。」
「はっ……、」
初めて、レイの顔が怯んだように歪んだ。
「俺はせめて、お前ともう一度だけライブをしたかった。お前が歌ってるのを一番近くで聴きながら、ドラム叩いてんのが何よりも好きだった。あの時間だけが、お前と繋がってる意味だった。辞めるなら辞めるなりに、覚悟が欲しかった。そうじゃなきゃ、俺は………」
レイは俺の目を見ながら、しばらく目を見開いていた。
それから両耳を塞ぐようにして頭を抱えると、そのままガシガシと掻いた。
そんなふうに感情を表に出すレイは初めてで目が離せない。ぐるぐる渦巻く感情が、殴りたいような、それよりももっと……
わかんねぇ。……わかんねぇ!
座ったままベッドに目を落とせば、自分の手が微かに震えていた。
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