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「鷹臣、お前………ほんと腹立つ。」
「ぁあ?」
「なぁ、鷹臣。」
レイはおもむろに立ち上がり、飲み終わった酒瓶を床に転がすと裸足のままこちらに向かって来た。
身構える暇も無く俺の目の前に立ったレイは、真上から見下ろして低い声で言った。
「最後にしたかったことは、ライブじゃねぇだろ?」
自分の決死の吐露が、こんな形で返されるとは思わなかった。しかし落胆と怒りとで睨むしかない俺にレイが言い放ったのはおよそ想像も出来ない言葉で、それは時間が止まるほどの呪力を持っていた。
「抱けよ。」
「は?」
………いま、何て?
「お前が後ろからいつも俺のことを犯してくんの、俺が気付かないとでも思ったか?思い切り強く叩きやがって。欲情丸出しなんだよお前のドラムは。」
は?俺が?レイを犯す?
「んなこと……してない。」
絞り出した声が自分では無いようで、空間と感情と身体がバラバラに動いている。ぐわんぐわんと全てが崩れるような末世感の中で、俺はおそらく呆然としていた。
「してるよ。ほら」
レイは片脚を上げて俺の胸元をドンと蹴った。
まったく手応えなくベッドに背中を預けた俺は、自分の上に跨ったレイの顔を、ただ眺めるしか出来なかった。
そしてレイが手を伸ばすと、自分の股のあたりのどうしようも無い違和感に気付く。
「硬ってぇの。お前。どんだけ俺のことやらしい目で見てたわけ?」
「うるせぇ!んなこと、絶対に……」
……絶対に、あり得ない?
改めてこちらを見下ろすレイを見て、全身がドクンと波打った。
あれ……俺……。はぁ……?!
ずっと、ずっとその後ろ姿を見ていた。
初めてその正面からのオーラを受け取って、とっくにその引力に陥落していたのだと知る。
俺は、俺は……こいつが………
「は、は、」
息が上がる。
レイは黒いTシャツを脱ぎ去ると、艶めかしい上半身の肌を見せつけた。妖艶な笑みを浮かべながら誘うようにその指をぺろりと舐めて、顔に手を伸ばしてくる。
「お前、なにして……」
絶対にあり得ない。俺の恋愛対象は女だ。
レイは男で、バンド仲間で、俺の、俺の……
「良いか、もう一度しか言わねぇ。」
ぺっと唾を吐く。ソファ脇のテーブルの足に付いたそれは、だらりと床に垂れていく。
「抱け。鷹臣。」
かがみ込んだレイの唇が自分の唇に触れてついばむ。
目の前の景色に血管の模様が走り、俺は身体中のあらゆる欲情が集まる気配に震えた。
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