レゾンデートルと嘘

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 何が起こったのだろう。  俺の中のパンドラは、鍵をこじ開けられた瞬間に巨大な魔物を吐き出した。  ぐいとレイの身体を引くと、力任せに姿勢を変えて反対に組み敷いた。完全に形勢逆転した体制のまま、本能のままに目の前の男の口を口で塞ぐ。歯列を舐め回しこじ開けてその先の奥を探るように舌を入れる。それに返すように絡まる舌に感情を込める。  もっと、奥。奥の方。  喉の奥まで舌を伸ばしたら、こいつの声帯に…… 「ぐ…、ん、、」  鼻から吸う息で辛うじて呼吸をするが追いつかない。  奥へ、奥へと舌で探って、咽頭の入り口を尖った舌で突くとレイが苦しそうにしたので俺は一瞬身体を離した。  しかしごろりと頭を揺らしてこちらを見たレイの目は明らかにいて、激しすぎるキスに濡れた口元は窓から差し込むピンクの光に滑る。拒否ではなく、要求。  ……嘘だろ?こんな……こんな……  抱けと言われて抱きました。では、済まない。  明らかにいま俺はこいつに欲情して……  いま?今だけか?この感覚は、ずっと、身体の中にあったのではないか。  恐ろしい考えに冷水をかけられるも、それは沸騰した脳の表面で蒸発して消えた。  いまこの走り出した感情を止める術が無い。 「はぁ、はぁ、はぁ、」  手で胸のあたりを探り、カリカリと先端を引っ掻く。波打った身体を押さえてさらに腹の当たりを舐め回す。  美しい声を出す、しなやかな腹筋に収まった臓器。  感情を司る胃腸と、情感を集約させる前立腺に向けた身体の起伏と筋を全て舐める。 「うぁ……ぅ」  レイのよく伸びた喉仏が動いて喘いだ振動を受けて、俺の理性は完全に崩壊した。  いつも耳で聴いているレイの声が、今腕の中にある。  それだけでこんなに高まる。たまらない気持ちになる。  ……いつから?いつから俺はこんなふうにレイを思っていた?  強制的に気付かされた自分の劣情への嫌悪感はうっすら袖を引くが、全く止まる気配が無い。  喘げ。叫べよ……!!!  レイの着ているスウェットの上から、股間のあたりに手を伸ばして握る。  硬い。  そのことに興奮して、自分のものも全く服に収まらなくなってきているのがわかる。  もはや服を脱ぐのももどかしく、着衣のままお互いの性器を擦りつける。触れ合うたびに背中に電流が走るほどの快感を悦ぶ。まだ挿れてもいないのにイキそうになる。 「だ……から、言ったろ?鷹臣、お前俺のこと好き過ぎ。」 「うっせ、これは好きとかじゃ……なくて……」 「じゃあ……な……んだよ、レイプか?」 「違……これは……」  ポタポタと、目の前に雫が落ちる。  まさか、俺は泣いているのか。 「レイ………、抱くぞ。」 「だからそうしろって言ってんだろ、早くしろ。」  レイの声はどの歌を歌うよりも艶っぽくて、俺は頭がおかしくなりそうになりながらレイの下着の縁に手をかけた。
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