レゾンデートルと嘘

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 それほど大きくない改札を出たバスのロータリーは、人手でごった返していた。  わかるだけでも3つほどの小規模なコロニーが待ち合わせに浮わついていて、大きく声を立てながら敏感に改札の電子音に耳をそばだてている。  それはおそらく2つ隣の駅にある大学から流れて来ていている学生たちで、大人になりきらない奇妙な集団が自由を持て余しているように見えた。 「………もう秋だぜ?」  思わず心の声が漏れたことに驚いてマスクの下でガムを噛んでいるふりをする。  春ならば生暖かい目で見る事が出来た風景であっても、夏という名の狂乱を経て秋になった今ほどまで軽薄なオーラを保ち続けている連中には辟易する。  しかし、つい数年前まで自分もあの中にいたのだと思うとさらに吐き気がする。  ……しかもあの男と。  改札を一歩出て仰げば、暮れかけた薄紫の空が広がる。雲はなく黒くグラデーションを描く先は、街灯の裏で影を濃くした背の低い商店街の輪郭。しかしそれもどこか品が良く、瀟洒な作りが鼻につく。  イヤホンからはピアノ曲が流れる。ボーカルだとかドラムだとかベースだとか。そういうのは要らない。空間に水流を放つように音が記憶を押し流してくれれば良い。  俺は、絶対に忘れることの出来ない相手の事を嫌でも思い出させるこの駅の風景が、大嫌いだ。  軽薄で、嘘つきで、ひねくれた…  もう会うことのない男。  それでも俺は多分、その記憶なしにこの駅を通ることは二度と出来ないんだろう。  何度も通った銀杏並木の黄色い絨毯を踏みつけて、俺は歩きだした。
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