レゾンデートルと嘘

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 降り立った夕暮れ時のバスロータリーは、見慣れた景色のわりに新鮮に思えた。  レイと達哉と俺は、大学1年のサークル勧誘の時期に同じバンドサークルで出会った。冷やかしに出た新入生ライブで3人で合わせて意気投合した。  ……いや、達哉と俺がレイに。  レイの才能は誰もが認めるところで、サークルの諸先輩方からの猛アプローチはすごいものがあった。  しかしレイはそれを蹴ってあっという間にサークルを抜け、3人で活動を始めたのだ。それぞれ別々に高校から組んでいたバンドを続けていたがそれすら辞めて3人の活動に没頭した。  さしずめ田舎に女を残して都会に出てきた男が、あっさりと都会の女に乗り換えるように。  そうまでしてレイに選ばれるような素質が俺にあったのかは未だによくわからない。達哉のベースは確かにかなりの実力派で華もあった。それと相性の良い俺の正確でかつ暴力的なパワードラムは組み合わせの妙か。  いずれにせよレイは俺ら二人との演奏を好み、3人で作る曲と演奏とを愛した。だからファンがつき、ライブハウスが満員になり、インディーズでもレーベルから音源を出し、メジャーへの声もかかった。  レイはそれを喜んでいた。  ……と、思っていた。今年の4月に唐突に消えるまでは。 「こ、い、びとよ〜僕は旅立つ〜」  自分を鼓舞するように小さく歌い、ロータリーを抜けて商店街の方へと歩き出す。一番近い居酒屋なら、目を瞑ってもたどり着ける。実際何度も、泥酔してはこの道を深夜に歩き呆けたのだ。  達哉とはバンド活動以外でもよくつるんで、この街を昼も夜もブラブラと歩いた。だから見慣れたし、だから好きな街ではあった。  でも思えば、レイと歩いたことは無い。  音楽の目的無しにレイと歩く夕暮れの街並みは、想像するだけでどこか息苦しい。  レイとの記憶はいつも楽器とともにある。言い換えれば、それ以外の時間では避けられていたと言っても良い。一人だけ学部の違ったレイとキャンパスで合わないのにそれほど不思議は無かったが、留年せずにいるらしいということ以外、大学内での彼のことはよく知らなかった。  しかしそれがどうやらに対してではなく、に対してだと知った時には不可解な気持ちに襲われた。  達哉は、レイと二人でバンド活動以外に会うこともあったらしい。おおよそ他愛のないことで、映画を観たり飯を食ったり。その時のお互いの彼女を連れて歩いたりもしたのだと聞かされて、不思議と嫌な感情は湧かなかった。  むしろ俺だけが避けられているという事実はどこか特別なものを感じて、優越感を感じる。  俺はレイと音楽でしか繋がらないし、音楽では誰よりもお互いを理解していると思いたかった。  歪んでる。それはわかってる。  でもじゃあ何で。  俺に何も言わずに消えたりしたんだ。  バンドを解散するならすると言えば良い。  俺はこの空白の半年を、どう解釈したら良いんだ。  それにお前は、どうするんだ?  レイに限って音楽を辞めるなんてことはあり得ない。それは彼の息の根を止めるようなものだ。  でもそれじゃぁ何で?  何で俺はこんなにも諦めきれないんだ?  果たしてけじめというものひとつでこの焦燥が無くなるのか全くわからないまま、カラカラに乾いたのどに舌を貼り付かせて、暮れゆく街路樹のイルミネーションを避けながら歩いた。
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