レゾンデートルと嘘

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 思わぬ展開に驚きはするものの、まだ肝心なことはひとつも話していないから好都合ではあった。ただ、レイが自分から逃げ場の無い場所に俺を招いていることを不思議に思う。  こいつ、本当に悪気なくやってんのか?それとも全部わかってて、これから本当に向き合うつもりなのか?だとしたらかえってレイらしくは無いし、怖くもなる。  もしそうならもっと早くて良かった。こんなに引っ張らなくても、向き合えたはずだ。 「悪ぃな、待たせて。」  レイはカウンターを出ると何食わぬ顔で俺の席まで回り込んで来た。  おもむろに立ち上がり、リュックを背負う。 「遅ぇ。」 「だから悪かったって。だからこうしてやってんだろ。」  レイが空になったグラスとスナックの籠を手早く持ち上げて、カウンター越しに店長に渡す。 「今のこと言ってんじゃねぇ。顔見せんのが遅ぇっつってんだよ。」  そう凄むと、レイはくるりとふりかえって苦笑いを見せた。  ……苦笑い。なんだよ、苦笑いって……!  まるでこちらが無粋なことを言ってるみたいな扱いを受けて腹が立つ。 「なぁ…お前ってやつは」 「店長!スミノフ2本!」  レイがもう一度カウンターに戻って声をかけ、瓶を2本受け取ってから戻ってきた。その顔はいつものニヤけ顔に戻っていて、すっかり俺ははぐらかされたのだと知る。クソだ。  ふいと扉を開けたレイからはうっすらとスモーキーな香水の香りがする。  俺は半ば諦めて顔を横に振ると、カンカン音を立てて屋外の階段を上がるレイを追いかけた。3階にむかう踊り場のチェーンを跨げば、高い金属音がささやかに響く。 「バイトしてる店の上に間借りするなんてすげえな。」 「だろ?超良い条件過ぎて、即決めた。」 「バイトを?部屋を?」 「はっ、どっちも、だろ。相変わらず訳わかんねぇとこ気にするよなぁ鷹臣は。」  バイトを探してたのか部屋を探してたのかでアプローチ違うだろうがよ。  イライラする気持ちが声にならなかったのは、屋外の風が頬を撫でたからか。  二人で上がる心もとないアルミ階段はどうにも胸をしめつけて、何故かこの瞬間のままどこにも進まなければ良いのにと思う。  店の扉の真上にあたる位置で立ち止まり、鍵を回しているレイの後ろ姿。  それはライブで嫌というほど見続けたレイの後ろ姿に他ならなかったが、その向こう側に客がいないのだと思うと妙に不安になる。  扉を開けながら振り向いたレイが上目遣いでこちらを睨めるのと目が合って、ドキリとする。  ……俺、入んのか。レイの部屋に。  訳のわからない不安に息がつまりそうになりながら、俺は家主に続いてその部屋に足を踏み入れた。
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