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目に映るものすべてが信じられなかった。 生きてゆく為に知らないふりをする、何もないように振る舞う。 芝居小屋で革新的なキメ台詞を吐く役者。 観賞用の花が短い一生を終えるように枯れてゆく。 美しい季節だけを切り取って見せられるなら、老いてゆく姿は見られたくはない。 日陰でそっと死んで逝く人生の落伍者。 輝くものの陰で消えてゆく幾つもの憧れ。 「はいよ粘りもの大盛り!」 カウンター越しに身を乗り出す雇われ店員の若造、注文した納豆チャーハンが来た。 この料理は火加減が難い、納豆が焦げ付かないようにサッと炒める。 至福の納豆とマヨネーズのハーモニー。 せともののレンゲでハフハフ言いながら掻っ込む。 コップのビールでめしを流し込み、隣のカウンターを見ると。 若いわけありそうなアベックがいちゃついている。 俺にはカンケ―ねえ。今月の給料の振り込みまで生き残ることだけ。 店主のおやじがジッポーで煙草に火をつける。 ぼんやりとした頭で考える、炎がすべてを焼き尽くしてくれたら。 この空間には色んな雑念が混じりこんでいる。
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