迷ひ子

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迷ひ子

「おかああさーーーん! おとおおさーーーん! 今、どこにいるのおおおおおお!!???」 ここは夢と奇跡の理想郷(りそうきょう)――“アストラルランド”。 仰々(ぎょうぎょう)しい名前ではあるが、要は遊園地(テーマパーク)。 首都圏・某県の海浜近くに建設された“星”をテーマにした巨大テーマパークで、年間来場者数は1000万人を超える人気スポット。 『ここは、エルドラドかアルカディアか、それともニライカナイか。数多(あまた)理想郷(りそうきょう)最高峰(さいこうほう)‥“アストラルランド”。貴方様と大切な方を星々が(いざな)います』 というキャッチフレーズのCMが有名だ。 「おかああさーーーん!!! おとおおさーーーん!!!!!」 その園内の中央広場(通称‥星見広場)の中心(真ん中)で、風船を手にした小学生低学年ぐらいの子供が一人で泣き叫んでいた。 おそらく親と(はぐ)れてしまった迷子だろう。 ―ふー、子供は(うるさ)くて、しゃーない。まあ、きっと誰かが助けてくれるだろう。 と様子(ようす)(うかが)っていたが、他の客は我関(われかん)せずにと、気づかないフリのように泣く子供の前を素通りしていく。 日が暮れていき、いっそう孤独(こどく)不安(ふあん)が強まってしまう時間帯。 ―冷たい世の中だ。 こういう場合は気づいた園内スタッフが子供をなだめて迷子センター(通称‥スタークラスター)に案内すると就業規則で定めているものだ。 だが、周りにスタッフらしき人物は居ない。 ―困ったもんだ。 なので、仕方(しかた)なく泣く子供の元へと近寄(ちかよ)った。 ―なぜなら自分が園内スタッフだから。 この遊園地のマスコットキャラクターの一体(いったい)で、星屑(ほしくず)をモチーフにした“スタダス”という名前だ。 スタダスは子供の前にやってきたものの、無言で見つめるしかできない。 就業規則(しゅうぎょうきそく)でマスコットキャラクターはお客様の前で(しゃべ)ってはいけないというものがある。 夢を売りにしているのだから、マスコットキャラクターの地声で夢を壊してはいけない配慮(はいりょ)だ。 ―どうしたものか‥‥。 とりあえず「どうしたのかな?」「迷子になったのかな?」「お父さんとお母さんは何処に居るのかな?」と身体言語(ボディーランゲージ)身振(みぶ)手振(てぶ)りをするものの(さっ)してくれなかった。 が、 「‥‥はは、変なの」 泣き()ませることには成功した。 ―このまま迷子センターまで案内(もしくは誘導)すれば良いだろう。ほら付いてこい。 と、手招(てまね)きをするものの、素直に付いてくれる訳がない。 「‥‥もしかして、お父さんとお母さんを見つけてくれるの?」 ―いや、迷子センターに連れてってやるよ。迷子センターで園内アナウンスをすれば親御(おやご)さんがすぐに迎えにきてくれるだろう。 言葉を発せない中で、こちらの意図は伝わったかどうか分からないが、 「ありがとう、スタダス!!」 ―感謝の言葉を貰うのは悪い気分ではない。 子供は笑顔を向けて、スタダスの手を握ったのだった。 ―まあ、迷子センターに向かう道すがら、ついでに親捜しをすれば良いか。 スタダスは変わり者という設定があり、突発的に変な行動をしたり(一種のサービス)、お客様に素っ気ない態度(たいど)を取ったり、ちょっかいを出したりと、近寄(ちかよ)(にく)い雰囲気を(かも)し出しているのも(あい)まって、人気が無いマスコットキャラクターでもあり、園内を歩いていてもお客様から声をかけられたり、一緒に写真(しゃしん)を撮られたりしない。 ―星屑(ほしくず)のように誰も見向きもしない存在(キャラ)だ。 自分(スタダス)の存在価値が夕暮れのように落ちていく中、子供はあれこれと語る。 「あのね、ぼく、ここに来るのがすごくすごく楽しみだったんだ」 ―へーそうなのか。 「流星(りゅうせい)コースターに乗ってみたかったし、銀河(ギャラクシー)フォールにも乗ってみたいんだ」 ―ほー。けど、残念ながら、それらのアトラクションには身長制限があるから残念ながら搭乗(とうじょう)できないな。 心の中で相槌(あいづち)を打つも、反応が無い一方的な話は打ち止めになるのも早いもので。 「‥‥お母さん、お父さん‥‥今、どこにいるんだろう‥‥」 子供は物寂(ものさび)しく(つぶや)くと(ひとみ)に涙が浮かんでいる。 ―ちょっと待った! もう少し、もう少し我慢(がまん)してくれ! (こら)えてくれ! 泣きそうな気配を感じ取って、あまり得意ではないダンスを披露(ひろう)してみせる。 お客様を泣かしたとか不快な思いさせたのなら査定(さてい)(ひび)いてしまう。 精一杯のダンスで気分を紛らせて見せるが泣くのを止められない。 「あらら、スタダスくん。どうしたの?」 挙動不審な動き(ダンス)に、運良く近くにいた清掃兼任案内係のスタッフが声をかけながら歩み寄って来てくれた。 ―ナイスタイミング! この迷子を迷子センターに連れていってくれ! というサインを出してみるも、言わずもがな(つた)わる訳がなかった。 「もう、なにこんなところで一人遊んでいるんですか」 ―え? 振り返ると、そこに子供の姿は無かった。 「スタダスらしく変な踊りをするのも良いけど、ちゃんとスター(お客様の呼称)のお相手をしてくださいね」 そう言い残して、スタッフは自分の業務に戻っていく。 ―ちゃんと迷子の相手を‥‥。いや、その迷子(まいご)何処(どこ)に行ったんだ? 迷子を行方不明にしてしまっては、査定では当然マイナスポイントである。 園内のあちらこちらに設置されている監視カメラで失態が録画されているだろう。 ―ヤバい!! 挽回(ばんかい)しなければ!? 意気込みつつ辺りを見渡し、唯一の目印である風船を持った子供を捜したが、その姿は無かった。 園内のそこら中に家族連れの子供はいるが、一人ぼっちの子供は見当たらない。 ―何処にいったんだ? というか、風船配布イベントなんてしていたっけ? 少し首を傾げつつ、来た道を戻っていく。
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