人生の転機

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 「坊ちゃん、友人には挨拶をしに行きましたか?」  馬に乗る準備をしている途中、ブランが聞いてきた。 「いや、行ってない。まあ、いいだろう。俺のことなんてそんな気にしてるやついないだろう」 「そんなことはないと思いますよ」 「いいよ別に」 「アイリス様にもしていないのですか?」  アイリス。子供のころからよく遊んでいた幼馴染だ。最近はあまり会っていない。 「ああ。アイリスだって、俺にかまってられないだろう。それに、ただの小さな旅だ。すぐに戻ってくるのに、わざわざ挨拶なんていいだろう」  俺は彼のことを見ずに、馬の背に乗った。  彼もそれ以上は何も言わなかった。  俺たちは馬の手綱を取り、街の外へと歩みだした。  二人旅の始まりだ。  とりあえず俺たちは、芸術の街へ行くことにした。とても華やかで、栄えている街だと聞いたことがあるが、行ったことはない。そもそも自分の街を出たことがない。なんなら家の周りぐらいしか……。  考えると不安になってきた。 「あまり考えすぎるのは良くないですよ。気楽に行けばいいのです」  隣のブランがにこやかに笑う。 「ブランは慣れてそうだな」 「まぁ、ここで働かせてもらう前は、様々なところへ旅をしていましたから」 「そうだったな。芸術の街にも行ったことがあるんだっけ」 「ええ。その名の通り、あらゆる芸術が街を形作っています。飽きはしませんが、疲れてしまう街ではありますね」 「そんなところに行くのか」 「一度行ってみて損はありませんよ。楽しみではありませんか?」 「楽しみではあるけど、やっぱり少し、不安というか」  (怖い…というか) 「大丈夫です。私が必ず坊ちゃんをお守りしますから」 ブランはいつもこうやって俺を安心させてくれる。 「そうだな。お前がいれば俺は大丈夫だな」  俺の街が遠ざかっていった。
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