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俺たちは町をでて、野原を駆け、丘を越え、途中の小さな町で夜を過ごし、また、少し駆け、そしてとある森の前までやってきた。
「この森を抜ければ、目的地が見えてくるはずです」
「なんか、いかにもな森だな」
「宿の人が言っていた話ですか?」
「まぁ、それもあるけど、それがなくても魔物とか出そうだなって」
「確かに一人では少々危険そうではありますね」
「お前がいてくれて本当に良かったよ」
ブランは剣術にも長けている。正直俺の街で一番強いのではないかと思っている。俺はといえば、そんな男に稽古をつけてもらっているというのに、これまた普通だ。決して弱くはないと思っているが、何か足りないらしい。何が足りないのか俺にはわからないが、別にわからなくてもいいと思っている。将来、騎士や冒険者を目指しているわけでもないのだから。
「まぁ、宿の人が言うには、この森には強い魔物はいないようですし、それに関しては大丈夫でしょう」
「それに関してはって、もしかしてもう一つの話を気にしてるのか?」
宿の人が言っていた、この森に関するもう一つの話。
〝呪いの館〟の噂。
この森には人を攫う魔女の館があるのだという。
ある少年の話だ。
用心棒を雇い、おじいさんとこの森を歩いていた時、突然あたりに霧が立ち込めて、あっという間に周りが見えないほどに包まれてしまったそうだ。その中ある一点にぼうっと怪しげな光を認め、よく見ると大きな館が建っていた。しかし霧はすぐに晴れ、そこにはその館もなかった。安心したのも束の間、少年は自分が一人であることに気がついた。用心棒もおじいさんも忽然と姿を消してしまい、今も帰ってきていないという。
そんな話がこの森ではいくつかあがっているようだ。だが、その霧は不定期で、ごく稀にしか起こらない。だから、話のネタ程度にとどまっているのだと。
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