“呪いの館”

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“呪いの館”

 俺たちは森の中へ歩みを進めた。  光が俺たちを照らし時折影が差す。風が吹けばサラサラと木々が揺れ、小鳥のさえずりも聞こえる。立ち入る前の予想とは反対に、思ったよりも美しく心地よい森だった。 「気持ちいいな」 「そうですね。……このまま何事もなく森を抜けられればいいのですが」 「神妙な顔でそういうことを言うな。不穏な空気になる」 「これは失礼しました。言いたくなってしまって」 (楽しそうだな)  ブランはたまにこういう微妙な悪ふざけをすることがある。 「まったく。ほんとうに―」  ――バサバサバサッ  驚いて言葉を切ってしまったが、近くの木から突然鳥たちが飛びったっただけだった。  (……だけ?)  大きな音も何もないのに一斉に鳥が飛び立つのか? 「坊ちゃん」  ブランも怪しく思ったのか、辺りを警戒している。  不気味な噂と鳥の行動で、先ほどまで美しかったこの森が一気に恐ろしくなる。  そのことが、なんだか、可笑しかった。  たまにあるのだ。自分の置かれている状況が急に客観的に見えて、今の自分可笑しいなと思うときが。その度に周りから引かれてしまう。そう、今のブランのように。 「坊ちゃん、悪い癖が出てますよ。この状況を楽しまないでください。そして、なるべく私から離れないよう―」  今度はブランが言葉を切った。俺たちは視線を合わせる。  霧が立ち込めたのだ。 「ブラン、これって」 「ええ、例の噂の霧でしょう。坊ちゃん、念のため私の手を」 「ああ」  ブランの手を掴もうとした瞬間、急に乗っていた馬が暴れだした。 「うわっ!」 「坊ちゃん!?」  馬はどこかに向かって走り出し、ブランの声はどんどん遠くなっていった。 「待て!とまれ!おいって、うわっ……痛って……!」  馬は俺を振り落とし、どこか行ってしまった。今までこんなこと一度もなかったのに。  打ち付けたところをさすりながら、起き上がる。そして視線をあげて、絶句した。  俺の目の前には、あの大きな館が建っていたのだ。  「笑っている場合じゃなかったな」  ひとり呟く。ブランの姿はもちろんない。  霧は俺と館を囲むように出ていた。まるで、この世界には館と俺しかいないようだ。いや、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。  だが、俺はまだ館の前にいるだけで入ってはいない。このまま扉を開けずに霧の向こうに行けば……。  俺はそう思いながら、館の扉をノックした。ほどなく扉がキィィと音を立てて開き、俺は中へ入った。  扉は再び音を立てて閉じた。
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