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目を閉じ、眠り続ける叶恵。
夢でも幻でもない、痛切に叩きつけてくる現実がそこにあった。
よく分からない数字や、点滅する画面のモニター機械に囲まれ、顔や体に繋げられたチューブの森で、叶恵は眠っている。
なんとか生き返る為に治療している状態なのだが、不謹慎にも貴志の目には、もう生きてはいない人のように感じられた。
仕方なく、大きなガラスから離れて、傍の椅子へと腰掛ける。
相変わらず、出来る事は何もない。
ただこうして、不安と悲しみに心を揺さぶられながら、奇跡を待つしかないのだ。
貴志は定期的に、溜息を吐きながら時間の流れに身を任せるしかなかった。
その後、ふと貴志の傍に人の気配がして、誰かが立っている事に気がつく。
ハッとしてその人物の方へと顔を上げる貴志。
そこに立っていたのは、凛とした紺色のスーツに身を包んだ、刑事の江戸川であった。
「よお、貴志。久しぶりだな。」
貴志は自身に置かれたこのしんみりとした状況と、何事もなかったかのようにしっかりとしている江戸川とのズレに少し困惑する。
「あ、・・は、はい。」
そこで、貴志の肩にポンと軽く手を置いて、江戸川が告げた。
「今回、お前も大変だったよな。そして、お母さんがこんな状態になってしまって・・・。俺自身も、あのジョオとかいうヤツに不意をつかれて捕まり、松田さんは死んでしまった。辛くて悔しかったが、悲しんでいても仕方ない。俺は、殉職した松田さんの為にも、絶対アイツら四姉妹を捕まえる! だからお前も、絶対に諦めるなよ。」
江戸川のそんな前向きな言葉を聞いて、貴志の心は励まされる。
諦めてはダメだ、と自分自身に言い聞かせて踏ん張っていたつもりだが、どこか強い風に気持ちが揺さぶられ、飛ばされそうな時もあったのだ。
しかし同じように、大切な存在である先輩の松田を失った江戸川は、いつまでも下を向いてなくて、その先を目指して歩きはじめている。
貴志は、何故か救われた気がした。
その時貴志は、ふと江戸川とは別の人物が少し離れた通路の所に立っているのを目にする。
その事を察した江戸川が、その人物を貴志に紹介した。
「俺の新しい相棒だ!」
そう促されて、ようやくツカツカとこちらに歩み寄ってくる人物。
身長は155cm程で、華奢な体型に上下黒いブレザーとパンツを着込んだ30歳代の女性が目の前に立った。
「はじめまして。刑事課の白凪《しらなぎ》 珠里《じゅり》です。あなたが、貴志くんね。」
自ら、そう挨拶した女性は、肩まで伸びた長い髪をサラリと靡《なび》かせ、色白の肌の小顔とキリッとした眼差しで訴える。
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