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「・・そうか。いや、父さんは、ここから見るよ。」
修治は、その場からじっと見ていた。
「・・叶恵は、・・母さんは。昔から何でも頑張る人だった・・。今もきっと、必死に頑張ってるんだろう・・・。」
気のせいかもしれないが。
貴志は、修治が泣いているように感じた。
それは、あからさまに涙を流すという事ではなく、心で泣いているようだった。
貴志は、そんな父・修治を初めて見た。
そして、スーパーエブリィ。
外は日が暮れて、時計は19時を過ぎていた。
店内には客が多く、スタッフたちも仕事に追われている。
そんな中、店内で業務をしていた鬼切店長の携帯電話が鳴った。
その場に立ち、鬼切店長は携帯電話をとって通話する。
「はい、もしもし・・。ああ、貴志か。今日は心配したぞ。急にバイトを休ませてくれ、って・・・。何⁈ ・・はっ? それは、本当か⁈」
電話の途中で、急に鬼切店長の声が大きくなった。
「・・嘘だろ。信じられない、そんな事・・。何でなんだ・・。」
鬼切店長は、店内である事も忘れて、尋常ではない様子で電話をしている。
その雰囲気と鬼切店長の大きな声が、何か只事ではない事態があったんだ、と周囲で働いていたスタッフたちは思った。
お客たちも驚いた様子で、買い物している。
そんな鬼切店長の様子を、仕事していた山口美咲もじっと見ていた。
「・・分かった。すぐに行く。」
鬼切店長の顔色は明らかに悪く、電話を終えた後も放心状態になっている。
心配になった美咲が、鬼切店長の傍までやってきて尋ねた。
「あの〜、店長。何かあったんですか?」
鬼切店長は、まだボッ〜とした状態で答える。
「あ、ああ。実は、叶恵さんが・・事件に巻き込まれて・・。それで入院したんだ。今、貴志から連絡があって・・・・。」
「えっ⁈ えっ⁈ あの叶恵さんが⁈」
驚き戸惑う美咲だったが、鬼切店長はハッと何か思いつき、行動をはじめた。
「あ、こうしてる場合じゃない! すまんが、俺は病院に行ってくるから。後を頼んだぞ!」
そしてバタバタと歩き出したが、商品の箱に躓《つまず》いて転ぶ。
「店長! 大丈夫ですか?」
美咲が声をかけるが、鬼切店長はすぐに起き上がり、駆け出していった。
不安な表情で立ち尽くしている美咲だったが、そこへ小太り店員の廣川がやってくる。
「どうしたの? 美咲ちゃん。」
「バイトなんてしてる場合じゃない!私も!」
美咲が決心したように言った。
「えっ? 何が?」
よく状況が理解出来ずに、廣川が聞く。
「あの、すいません! これ、仕事の残りです! 鬼切店長が、廣川さんなら責任もってやってくれるから、彼に任せなさいって言われたの!」
そう言って美咲は、伝票の用紙と在庫用紙を手渡した。
戸惑う廣川。
「えっ⁈ は? 俺が? 店長が言ってたの? まあ、俺なら出来るけど・・。」
「じゃあ、後はお願いします!」
そう言い残して、美咲はもう駆け出していた。
呆然とした顔で、美咲の後ろ姿を見ている廣川。
「どういう事?」
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