ケース9️⃣ 前世終焉

3/77
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
ここは病院。 叶恵が入っている集中治療室の前で、貴志は椅子に座り込んでいた。 身動きせず、生気《せいき》の感じられない貴志の姿がある。 父の修治は、先程また研究所に戻っていったところだ。 じっと一緒にいても仕方ないし、何かあればすぐに連絡するという事で折り合う。 貴志は一人になってから、ずっと考えていた。 それは、叶恵が言っていた事。 あの時・・・。 偶然、引き出しの中からメグが叶恵に宛てた手紙を見つけた。 一人で出かけていった叶恵に電話をした。 貴志は、危険だと叶恵に伝えたが・・。 叶恵は、自分自身で占った結果、大丈夫だから、と答えた。 占い師である以上、自分の占った事に自信をもってる、と言っていた。 それなのに・・・。 叶恵は、こんな事になるなんて、占いで予期していたのだろうか。 それとも、こんな事件に巻き込まれるなんて、想像もしていなかったのか・・。 貴志は、その時の叶恵の心理が分からなかった。 どうして・・・。 その時、貴志の肩をポンと叩いた人物がいた。 ふと、貴志がその人物を見上げると、そこに立っていたのは、森山昌也である。 「よお! 遅くなって、すまん。」 「昌也。来てくれたのか。」 貴志が、そう言って立ち上がった。 「おばさんの容体は、どうなんだ?」 昌也は、ガラス越しに叶恵の姿を見ながら尋ねる。 貴志は、厳しい表情をしながら首を横に振った。 「いや、まだ意識が戻らない。」 「そうか・・。こんな事件に巻き込まれて・・。お前も、おばさんも大変だったな。」 昌也が、貴志の方を見ながら言った。 「うん。まあ・・。母さんは、あの四姉妹に招待されて、出向いて行ったんだけどな。」 「結局色々な事件があって、行方知れずになっていた四姉妹たちが、容疑者だったってわけか。アイツら許せねぇな。」 昌也は、怒りを露わにする。 「あの四姉妹は、警察の応援が来た後、辺りを捜索してもらったけど、また姿を消してしまったんだ。不思議なのは、母さんと一緒に車に避難していた三女と四女の幼い子たちは、もうその場にいなかった。」 貴志は、俯いた様子で話した。 「まあ、四姉妹とも一緒に逃げているだろうよ。俺もその時、一緒にいればなぁ。悔しいよ。」 それを聞いて、貴志は首を振りながら両手の拳を握りしめ、怒りにふるえる。 「くっそう・・。招待された母さんを追って、俺はアイツらの別荘まで辿り着いたんだ。そして、警察車輌の中でずっと母さんと一緒にいたはずなのに・・。俺はあの時、松田さんと江戸川さんの事が心配だからと、その車から出ていったんだ。あの時、母さんは俺を引き止めていたのに・・・。あのまま、母さんの言う通りにして、俺が車に残っていれば、母さんはこんな事にならなかったかもしれない・・・。」
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!