ケース9️⃣ 前世終焉

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昌也がその話を聞きながら、同情するように言った。 「貴志。お前のせいじゃないだろ。自分を責めなくてイイよ。悪いのは、あの四姉妹じゃないか。」 それでも、悔しがる貴志。 その傍で、昌也が代弁するかのように告げた。 「アイツらは、絶対に許さない。」 貴志が、昌也の顔を見上げる。 その時、廊下の向こうから歩いてきた人物がいた。 貴志も昌也も、面識のない人物であったが、近くまで来ると立ち止まる。 「秋原貴志くん、かね?」 そう聞いてきたその人物は、スーツを着込んだ40歳代ぐらいの風格ある男性であった。 貴志が恐る恐る返答する。 「あ、はい。俺がそうですけど。」 そして男性は、スーツの内ポケットから手帳のような物を出して、貴志へと見せた。 それが警察手帳だと分かる。 「強行犯係、刑事課係長の岩倉と言います。」 そこで、貴志と昌也は、ハッとした顔をした。 「刑事さん・・!」 松田と江戸川の上司でもある、岩倉 哲也《いわくら てつや》であった。 「こちらは?」 岩倉が、昌也を見て尋ねる。 そこで貴志が、紹介した。 「あ、友達の昌也です。」 そう言われた後、昌也自身改めて頭を下げて挨拶する。 「はじめまして。森山昌也です。」 岩倉も頭を下げた。 「今日は、君と少し話がしたいと思ってね。」 岩倉はすぐに切り替えて、貴志の方へ告げる。 「あ、はい。」 貴志は、躊躇しながら返答した。 その状況を察して、昌也が言う。 「あ、じゃあ俺は、ここで帰ります。じゃあ、貴志。また明日、来てみるよ。」 「昌也。すまないな。来てくれて、ありがとう。」 貴志が、申し訳なさそうに返した。 貴志と岩倉は、帰っていく昌也の後ろ姿を見送る。 さて、といった感じで、改めて岩倉が貴志に話しかけた。 「今回の事件。君も、お母さんも大変だったね。」 「あ、はい。」 貴志が返答する。 「至急応援に駆けつけるはずだった刑事たちも、通路を塞がれて苦労したみたいだが。」 岩倉がそこまで話した時、貴志はハッと何かを思い出したように尋ねた。 「あっ! あの、そういえば、松田さんや江戸川さんは?」 岩倉は、深刻な苦い顔をする。 「江戸川は、別の救急病院に運ばれて、入院治療中だ。まあ、重症ではないから3日もすれば退院出来るだろう。」 貴志は、ただ頷きながら聞いていた。 続けて岩倉は、やや額の汗を拭いながら言う。 「ただ・・・。松田の方は、・・ダメだった。」 「えぇっ‼︎」 時間が、20時30分を過ぎようとする静かな院内廊下に、思わず貴志の驚嘆した声が響き渡った。 「そ、そんな・・。」 今度は呟くように、貴志が言う。
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