ケース9️⃣ 前世終焉

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真っ暗な広い海。 まるで、眠りについたような静かな海は、緩やかに波を運び、ただ繰り返し波音を届ける。 その波に弛《たゆ》み繋ぎ止められた、一艘のクルーザーが、小さな島の船着場にあった。 その全長30フィートクラスの中型クルーザーは、白いカラーに見事な船体で夜の海に佇んでいる。 島は木々に囲まれ、陸地となる丘には幾つかの建物が存在した。 そのうちの一つ、ログハウスのような建物には煌々と明かりが灯っている。 建物内は、20畳程の広さになっており、木でできたテーブルや家具が並べられていた。 その一角に麻の敷物が敷かれ、ジョオが横たわっている。 浅い呼吸をしているジョオは、どうやら眠りについているようで、紅潮した顔には汗が滲んでいた。 そこへ、水の入った洗面器を抱えてメグが現れる。 ジョオの傍に座り込んだメグは、洗面器の水でタオルを絞り、それでジョオの顔をゆっくりと拭いていった。 メグは何も言わずに、ジョオを見つめている。 そこへ、小柄でポッチャリとした体型の50歳代の女性が入ってきた。 「今、ベスとエイミーは向こうの建物で、眠ったわ。」 その女性の方へと振り返りながら、メグが答える。 「ありがとう。アブ。」 「いいのよ。それより、ジョオの具合はどう?」 短髪黒髪のアブという中年女性が、メグの横に座り込んだ。 「まだ、熱が高いわネ・・。それに、肋骨も折れてるし・・・。」 メグが、心配そうな顔で言う。 身だしなみも地味で、オシャレとは程遠いトレーニングウェアのような格好をしたアブは、深い溜息をついた。 「もう〜、久しぶりに四姉妹が来たかと思ったら、こんな大変な状態で驚いたわ。」 「どれぐらいぶりかな?」 メグが尋ねると、アブがしっかりとした声で答える。 「3ヶ月ぶりって感じね。それと、あなたたちのお母様に会ってみたかったわ。残念。」 メグが、また溜息を漏らした。 その時、部屋に入ってきた人物がいる。 アブと同じ50歳代後半ぐらいの中年男性で、小柄な細身体型だった。 その男性は、しかめっ面にタバコを咥え、上下つなぎの作業服を着ている。 「メグ。クルーザーは点検して、燃料入れといたぞ。」 そう、ぶっきらぼうに言われて、メグは返事を返した。 「ありがとう、プランク。迷惑かけるネ。」 プランクという中年男性は、不機嫌そうな口調で言う。 「気にするな。前にも言ったが、俺はただ、警察と税金が大嫌いなだけだ。」 そう言い捨てて、部屋を出ていってしまった。 そこで、アブが苦笑いしながら言う。 「フフ・・。メグ。ごめんなさいネ。あの人は、あんな言い方しか出来ないから。」 「アブ。分かってる。」 メグも、笑い返した。
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