第一章:憎愛の浄化

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 可哀想な存在ではあるけれど、“仕事”として関わることがない以上は接点を結ぶ義理はない。 「あ、お姉ちゃん。あそこ、新しいのがいるよ」  ついさっき自販機へ駆け寄り買っていたお汁粉(しるこ)を、両手で包むようにして持ちながら、夢愛が前方に見える交差点を顎をしゃくるようにして示してきた。  つられるようにそちらへ視線を向けると、交差点のちょうど真ん中にスーツ姿の男性が一人、ぼんやりと立っているのが確認できた。 「……ああ、そう言えば事故があったんだっけ」 「うん。確か、クリスマスイブの夕方だったっけ。やっぱり未練があるんだろうね」 「同情はしないでよ?」 「まさか」  クリスマスイブの日に、あそこで三十代のサラリーマンが大型車と接触して死亡する事故が起きていた。  男性は普段より早めに仕事を切り上げ、子供へクリスマスプレゼントを買って帰る途中だったそうで、急いででもいたのか赤に変った直後の横断歩道を無理矢理渡り切ろうとして車に撥ねられた。  男性は即死。交差点には潰れた箱から男の子用の玩具が飛び出し散らばっていたらしく、近所でも不憫な事故だったと話題に上がっていたのを何度か耳にした。 「学校の友達に教えてもらったんだけど、うちと同じで片親だったらしいよ。離婚して小学生の男の子を引き取って、男手一つで育ててたって」 「ふぅん。それなら、私たちのお父さんより立派じゃない。でも、そんな事情があるのなら、未練を残しても不思議はないわね」
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