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大切な我が子を置いて死んでしまった父親。気楽に成仏なんてできるわけもない。
かと言って、ここで私が何かをしてあげられるかと言えばそれも無理なこと。
可哀想ではあるけれど、下手に同情をしてこちらに寄ってこられるのも避けたいという思いで、私はボロボロになったスーツに身を包む男を直視せぬよう努めながら、無心で横断歩道を渡った。
「……何もしてあげなかったら、あの人ずっとあのままだよ」
「そうね」
私と同じように前を向いたまま、夢愛は無感情な口調で呟いてくるのに対し、こちらも感情を含まない短い返答だけを口にしてそのままコンビニへと歩いていく。
凛と冷えた空気を黙々と吸い込みながら、更に五分程進んだ頃に。
「あ、平坂先輩発見。立ち読みしてる」
道路を挟んだ向かい側に目的地が見えたと同時、夢愛が即座にそんな報告を伝えてきた。
「相変わらず、目が良いね。羨ましい」
「お姉ちゃんは本の読みすぎ。お風呂入ってるときでも良いから、目の周りほぐすようにマッサージしてみなよ。毎日五分くらい」
「それで視力が良くなるの?」
「知らないけど」
「じゃあ何で言ったの?」
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