第二章:口渇の原因

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 あたしが口にしたその問いかけに、穂奈江さんの目元がピクリと引きつった。 「どこか、行ったんですか?」  何か心当たりがあるなと直感し、あたしはほんの少しだけ声のトーンを落として言葉を重ねる。 「……一ヶ月半くらい前に、姫納鬼(ひめなき)ダムへ観光に。昔からの友達と四人で行って、その後は近くの旅館で一泊して帰ってきました」 「姫納鬼ダム。聞いたことがあるわね。確か……」  穂奈江さんの返答を聞いて、お姉ちゃんが顎へ手を当てながら呻くような呟きを漏らしてきた。 「そう、確か数年前に女性が一人焼身自殺をした場所じゃなかったかしら? テレビのニュースで一時的に話題になっていたのを思い出したわ」 「……ああ、そう言えばそんなのあったような。そっか、じゃあ穂奈江さんに憑いてる霊は、その自殺した女性ってことかな。そのダムで自殺があったことは、知ってたんですか?」  お姉ちゃんの呟きで、あたしの脳裏にも当時のニュースが蘇った。  冬の早朝に、ダムの駐車場で灯油を被り火をつけて亡くなった、三十代の女性に関するニュース。
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