彼氏くんと彼女ちゃんの話 10

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『えへへー来てくれたんだ』 そういう彼女に、自分はなんと言って返したのだったか。 彼女の言葉は覚えているのに、自分が何を言ったかはあまり覚えていない。 『えっと……その。 友達がやってて便乗した! とかじゃないからね? その、うん……ほら、昔よく遊んだじゃない。 あんな感じで、お友達からでいいから、さ、その……』 しどろもどろな彼女を見て、それ以上言わせるのはなんだか申し訳ないと思った。 『……俺で、いいなら。 ん、よろしく』 『えぇえ即答っ?!』 『や、何がどう変わるってもんでもないだろ。 いつもの生活サイクルに、もう少しだけ刺激が加わるっていうか、楽しみが増えるっていうか』 ……そうだ、この時たしかに自分はこう言った。自分のその言葉で、彼女が微笑んだ。 その次の日からは、もう一緒に登校していた、なんにしろお向かいさんゆえに実行は難しくはない。 「そっか、……そうだな」 この一年で、彼女はすっかり自分の生活サイクルの中に組み込まれた。 明日で一年ということで……『いつもの生活サイクルに、もう少しだけ楽しい刺激を』、そんな感覚でいいのではないだろうか。 弟がズバリそのものであるチューとか言うから、無駄にドキドキしてしまった。 というかよく考えたら、クリスマスデートの際に腕をくんで歩いているではないか。 うん、やることはちゃんとやっているはずだ。 今はもう、お互いの時間割だってよく知る仲だ。大丈夫、今年も三限後には自分も彼女も時間のゆとりはあるはずだ。 明日は少しだけ……頑張ってみよう、ほんの少しだけ、だけど。
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