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「あゆ」
今まで、あまり名前を呼んでこなかった。 学校では当たり前のように名字で呼んでいたが、プライベートでは控えていた。 ……幼少時にはむしろ呼びまくっていたのに。 一度は疎遠になっていただけに、抵抗があったのだ。
「ちゃんと名前で呼ぼうかなって思ったんだ」
「……、は、ハートアタック……AED……証明終了……いやそれ違うわ……」
「はい?」
相変わらず、彼女の返事はよく分からない。 とにかく心臓に負担をかけるほど響いたことは間違いないだろう。 なぜならこの一年間、彼女も自分のことを名前では呼んでないからだ。 理由はおそらく自分と同じだと思う。
「だから、あゆも俺の事。 名前で呼んで欲しいかなってさ」
「ぅえぇ! ……い、今ならタバコ吸うならライター無しでいけるよ、顔から火ぃ噴きそう……」
「火が出る、んじゃなくて、噴くんだな? それはそれで面白そうだけど、俺タバコの匂い駄目なほうだから、遠慮しとくわ」
彼女は昔、自分のことを好き放題に呼んだ。 日によって、呼び方が変わったりもした。
大和(ひろかず)、この名前で一般的に大人から呼ばれた『ひろくん』とは一度も呼ばなかった。 彼女いわく、オリジナリティがなくて嫌らしい。
「やっぱり、ちゃん付けはアレだよね……?」
「ああ、ダイちゃんって呼んでたな。 それでもいいぞ」
「いやいや、呼ぶほうも恥ずかしい……えっと、くんやちゃんは、ついてないほうがいい?」
「好きにしろって……おい、休み時間終わるぞ」
「おぉう、折角の逢瀬がぁ! う~……む~……」
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