彼氏くんと彼女ちゃんの話 10

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……いやいや、なぜ悩む……。 名前って、なんのためにあるんだっけ。 そのまま呼べばいいのに。 やまちゃん、トマト、カズくん、ダイワ、ヒロリン、ヒロヒロ、カーズー、めちゃなごみくん、……そう言えば、本当に色々言ってやがったなぁ。 真っ赤になって、口を尖らせて、彼女はようやく口を開いた。 「……大和」 「……最初っから、名前で呼べっつってんのに」 「いや~だって照れる~……く……っ、まさか名前でここまで気力体力削られるとは……!」 あぁあぁ、自分が関西人なら、ハリセン持ってきて全力で『なんでやねん!』ってツッコミたい。 でも、呼ばれてなんだかくすぐったい感じはした。 顔から火は噴かないが。 ここで、ぐっと腕を引いてギュッなりチュッなり……出来たらいいのだろうが。 出来る気なんてさらさらしない。 言い訳にしか聞こえないかもしれないが、ここは学校、学び舎なのだ。 「さてっと、戻ろうか……」 早目に切り上げねば、チャイムが鳴ってからでは遅いのだ。 図書室から各々の教室まで、少し距離がある。 「……」 彼女、あゆが無言で腕を引いた。振り向けば、どこで覚えてきたんだとびっくりするくらいの、物凄い力のこもった上目遣いで見つめられた。 「……、な、なんだよ」 いや、なんだ、そのアヒル口。 え、なんで自分、口元に目がいったんだ……。 「三倍……」 「は……?」 「ホワイトデーで! 三倍返しにしてドキドキさせてやるんだからね! 覚悟するがよいわヒロリン! ほーっほっほっほっほっ……」 謎の高笑いをかまして、先に階段を駆け下りて行ってしまった。 ……いやまあ、一緒に戻ったりすると目撃されたりしたら面倒くさいから、それはそれでいいのだけど。 「あー……我慢の限界がきたってヤツな」 えぇと、ホワイトデーはむしろ、自分のほうが渡す側なのだけど。 なにか、自分を焦らせるようなとっておきの殺し文句でも言ってくれるのだろうか。 ……無理! という気持ちと、上等だ、ドンと来いやという気持ちと。 両方湧き上がった。 なんだか可笑しくなって、思わず声を出して笑ってしまった。
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