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大人になれば。
子供だから。
――――――そんな定義は、オレが身を置いている世界では意味を持たない。
その場で理解出来なければ同年代から足元を掬われるし、大人達からは他の令息と比べられて序列をつけられる。
だからオレは、どの場面でも全てに打ち勝っていかなければならない。
一族の――――――世界に名を馳せる富豪ロランディの名を継ぐ者として――――――。
自分に言い聞かせようと目を伏せた時、部屋のドアがノックされた。
「ごめん、誰か来たみたいだ。サネハル、少しいいかな」
『もちろん』
「――――――come in…――――――Dad?」
きっとベッドメイクの最終確認をしにきたメイドだろうと想定して許可を出したのに、扉を開けて顔を出したのは父さんだった。
【やあ、咲夜、オンライン中なのか?】
【うん、サネハルだよ】
生粋の日本人である父親との会話は英語。
日本語を理解しないロランディ本家以外の一族に対しての配慮であり、余計な詮索を生まないため、そして付け入る隙を与えないためだ。
屋敷内の使用人は徹底的に侍従長が教育しているけれど、この時代、金が必要な理由は溢れていて、それから完璧に目を逸らせるほどの忠誠心を全員に叩き込むことは難しいらしい。
【やあ、ハル】
【――――――久しぶりだね、一暁。元気そうだ】
カメラの前に父さんが手をあげると、サネハルも同じように返してきた。
【おかげさまでね。君達も変わりはないかい?】
【――――――ああ。家族共々問題ないよ。そちらはどうだい? エヴァも元気かな?】
【元気だよ。また近い内に彼女と日本に行く予定だ。時間作って連絡する】
【――――――楽しみにしているよ】
【…ところで、授業はもう終わりかな?】
会話を区切ってそれぞれに目配せをした父さんに、オレは頷いた。
【終わったよ。今はサネハルの娘さんの話をしてたとこ】
【そうか。サーヤは元気かい? 去年日本に行った時は会えなかったからね。大きくなったんだろう?】
【――――――五年生だ】
【咲夜より一つ下だったか】
【――――――ああ。次に来た時はぜひうちに寄ってくれよ? 美乃梨も前回は会えなくて残念がっていたから】
【そうするよ。――――――ところでハル、実はこれから咲夜に予定が急に入ってね】
【え?】
驚いたオレを他所に、
【――――――わかった】
サネハルはあっさりと承諾した。
『――――――それじゃあサクヤ、また明日』
「…はい、ありがとうございました」
未練もなく切れるのがオンラインのいいところでもあり、寂しいところでもある。
【で? こんな時間に何の予定? 父さん】
PCにロックをかけて椅子から立てば、父さんが困ったように笑った。
【母さんが待ってる】
【え?】
【お前に話があるそうだ。――――――ロランディの当主としてではなく…】
濁されたその前置きだけで、あまりいい予感はしない。
【もしかして、また例の…?】
【そういう事だ】
やっぱりか。
【…すっ、げぇ、嫌なんだけど】
【そう言うな】
ロランディの女傑と呼ばれていた母さんを、ドロドロに溶かすまで撃ち抜いたという父さんの美貌が笑みに象られる。
そして、オレの肩をポンポンと叩いてギュっと抱きしめてきた。
【エヴァは四六時中、一族を守って矢面に立っているんだ。たまの愚痴くらい聞いてやれ】
愚痴――――――ね。
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