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その不意を突いた切っ先に、ハッとマリーを見た。
オレを射抜く様に、真っ直ぐに見てくるグレイアッシュの瞳。
【おばさまがね、私をここに寄越したのは、きっと連絡がこないとか、メールの事とかじゃないの】
【…】
【おじさまが、苦しそうで、――――――もしかしたらサクヤも、同じように苦しいんじゃないかって】
【…それは、父さんにとっては親友が亡くなったんだ。苦しいに――――――】
【そうじゃなくて】
マリーが、まるで握手を求めるように手を伸ばしてくる。
ワケが分からずに動けなかったけれど、その手を取らない内はマリーが続きを話す気はないと気付いて、仕方なく手を差し出した。
指先を握られ、もう片方の手で、その上から包み込んでくる。
【おじさま、後悔していらっしゃるみたい】
【…え?】
【あなたを、日本に連れて行かなかった事。――――――その方との、お別れの機会をサクヤにあげられなかった事】
【…】
――――――父さん…。
【自分の事で精一杯で、サクヤの事を思いやれていなかったって。――――――おばさまがおっしゃるには、だけど】
唇を噛む。
それと同時に、オレの手を握るマリーの指に、力が入った。
違っていた体温が、ゆっくりと馴染んで溶けて、一つになる。
オレと、そして父さんを知るマリーにだから、きっと正しく伝えられる。
【…ぅん】
あれから何度も後悔した。
サネハルとの別れの儀式に、行けば良かったと。
行きたかったと。
友人を亡くした父さんに気兼ねして、気弱になり、行こうと思えば日本に駆け付ける事は出来たのに、オレは、それを実行しなかった。
【会って…みたかった】
それを、連れて行ってくれなかった父さんへの逆恨みで、要点をずらして押し殺していた。
それが見当違いの話だと分かっているから、連絡を取る行動に躊躇が出た。
【会いたかった…】
行動出来なかった自分への怒りと、それを父さんのせいにしようとしている自分への呆れと、そのジレンマに気づいてくれない父さんへの恨み言と――――――。
色んな感情が複雑に混ざって、
もう、会えない――――――…、
永遠に、
【でも、父さんにはやっぱり言えない…】
【サクヤ…】
叶えられないと解っている願いを口にするには、オレは理性を学び過ぎた。
【――――――良い子のサクヤ、健在ね。ほんと、不器用なんだから】
握られた手を握り返せば、マリーが困った様子で小さく笑う。
【…マリー、オレの事は…】
【解ってる。モテ過ぎて大変そうで忙しそうだったって、お二人には伝えておくから】
【頼む…】
しばらく見つめ合って、どちらかともなく頷き合う。
何となく、背中が軽くなったような気がした。
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