TOP NOTE

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 カメラの向こうから、驚いた様子で画面に映っているオレを見つめてきたのは、凄く優しそうな日本人の 女の人で、  『あ――――――』  突然アクティブになったPCに戸惑いを見せたのは一瞬、  『あの、こんにちは。初めまして。私は、西脇の妻です。オンラインの生徒さん…ですよね?』  ゆっくりとした口調で話してくれる。  さすが、サネハルの、奥さん…だ。  「…はい」  物凄く、胸が熱くなった。  『ごめんなさい。契約している生徒さん全員にメールを出したつもりだったのですが、実は――――――』  「あ、いえ」  彼女が何を言おうとしているのか分かって、オレは慌ててそれを止めた。  サネハルサイドからのイメージだけど、二人はとても愛し合っているように聞こえていた。  そんなパートナーが死んでしまったのだと、誰かに説明する度に、きっと泣いてきた気がする。  「知っています。先生に、何があったのか」  『…そう、ですか』  ホッとしたような、そんな笑み。  この人が、サネハルが染めた、愛の結末――――――。  サネハルが、大切にしていた人。  どんな想いで、サネハルはこの世を離れただろう。  きっと、もっと、家族を愛する時間を、願っていた筈だ。  サネハル――――――…。  「とても、素晴らしい、方でした」  これで、オレも、区切りをつけたい。  この奇跡的な時間は、サネハルがオレにくれた、別れの時間だ。  「ご冥福を、心より、お祈りいたします」  サネハル。  サネハル――――――。  『ありがとうございます。夫はもう教える事は出来ませんが、これからも、日本語を好きでいてくださいね。あの人が、世界で一番愛していた言語だから――――――』  涙を浮かべながらも、サネハルを誇ったその笑顔は息を呑むほど美しくて、胸に突き刺さる。  父さんや母さんとはまた違う、穏やかで、それでいて確かな強固さを感じられる関係性。  最後の最後に、サネハルはまた一つ、オレに教えてくれた。  死してなお、こうして結びつきを思わせるほどに誰かを染める愛し方の事。  「――――――忘れないよ、サネハル」 決意と共に一礼した後、オレは決別のように、ツールを終了させた。
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