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MIDDLE NOTE
オレが初めて女を抱いたのは、高等部に入ってすぐのフレッシュマンの年。
日本で称うと、中学三年生のグレードの時だ。
相手は最終学年であるシニアの先輩。
例の二カ月サイクルの中に入ってきた、正直、オレを相手にする必要があるのかと思わず疑いそうになる程に綺麗な人だった。
この学校でも希少な爵位持ちの家の嫡男に、デビュタントのパートナーとして物凄いアプローチをされた事も頷ける程に。
しっとりとしたブラウンの髪の手触りが好くて、艶めいていて、一緒に勉強をしても、敷地内の森の中でデートをしても、キスや、それ以上も、心地いい。
もちろん、オレが彼女にとっての"初めて"じゃない裏側の奔放さも以前から知っていたから、お互いが楽しければ良いというスタンスが大きかった。
相性が好いとう事の実感を齎された二か月は、驚くほどあっという間だった。
【ん~、堪能。これでお別れかと思うと、寂しいわ】
最後の長いキスを終えて、彼女は笑う。
【結構楽しく愛し合った自信あるんだけど、寂しそうな表情を少しも見せないところがほんとむかつくわ】
ピン、と鼻先を指で弾かれた。
こうして、三つの年の差を盾に僅かなマウントを愛嬌を混ぜてとってくるところはデフォルトだ。
【でも――――――そろそろあなたも、潮時じゃない?】
ふと声が静まった彼女の声が、最後にオレに何かを伝えようとしている事を理解させる。
【女の子との、こんな関係性】
【…そうかな?】
オレが、愚かだった入学当初より成長したように、周囲も思考のステージを上げた。
現在の全てであるこの出来上がった世界の中で、誰かを虐げて自分の価値を下げる子供はもういないという事だ。
【絶対そうよ。本当の意味でエスコート出来る男にならないと、肝心なところでミスをするわよ。人数をこなしても、一人に対して二か月という薄っぺらい経験値じゃ、高が知れてるもの。現に私も、こんなものかなって感想だし】
それは、オレの見た目じゃなくて、中身、つまり男としての人間性を問いている。
【せっかく外見に引けを取らない中身の素地があるのに、育てないと寝かせてしまうわよ】
【…】
同情にも似た視線でそう告げられて、細い指の先で頬を撫でられる。
じわりと、そこから熱が広がった。
ずっと、胸の奥底の方までも――――――。
【…今度は、オレが申し込んでもいい?】
【――――――え?】
エメラルドグリーンの瞳が、驚いたように見開かれる。
【次の人に、ちゃんと話をして断ってくるよ】
【サクヤ…?】
【それが終わったら、オレと正式に付き合って?】
彼女は、しばらく無言だった。
一度も、オレから目を逸らさないところがとても好きだと、清々するほど真っ直ぐに思えた。
【――――――ふふ。いいわ。私もそろそろ、ちゃんとした恋がしてみたいと、思ってた】
今までまったく見せられていなかった彼女の柔らかい笑顔が、オレの初恋の始まりだった。
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