MIDDLE NOTE

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 でも、どんなに出来が良くても、ボディソープは所詮消耗品。  だから、拘りを買ってもらうような値段をつけても、ビジネスとしては直ぐに回らなくなる。  「なので、数を捌ける安定ラインが欲しかったんです。あそこのリゾートチェーンはデラックスルーム以上の保有数がダントツですし、複数の優良な立地を押さえているから全体での稼働率も決してボーダーラインを割らない」  「…下調べは十分のようだけど、生命線を一社に委ねるのはどうかと思うよ」  「それも考えたんですけど、その頃には、もっとリーズナブルな新しいアイテムを開発するってスタッフが張り切っているので、任せてみるのもありかなと」  自分にしか出来ない事と、人に任せられる事の線引きの仕方を教えてくれたのはルビさんだ。  案の定、オレの答えは先生としては納得できるものだったみたいで、嬉しそうに表情を緩めた。  いつ目にしても、この美しさには見惚れてしまう。  「――――――ルビさん、確か一昨日は日本でしたよね? ジェット飛ばして来たんですか?」  「うん。ロスによって大輝拾って、そのままこっち」  マジか。  「ありがとう、ございました」  「…咲夜(さくや)?」  打算も含めて決断した事だったけれど、あのまま相手の酷い態度の中で取引を続けていれば、まるで身売りのようだと、少し苦い思い出になったかもしれない。  ロランディの名前のない仕事だからこそ、経験出来ることではあるけれど…。  「――――――咲夜(さくや)」  名前を呼ばれた顔を上げて、  「ぁ」  無意識に、俯いてしまっていた自分に気づく。  視線を合わせてきたルビさんは、けれどそこには何も触れずに、  「僕がR・Cを立ち上げた時は、もっと沢山の人の力を借りたし、企業の売り買いばかりが得意になって、何かを作り出すなんてビジョンすらなかった。立ち止まるのはいいけれど、まだ後ろを振り向くタイミングじゃないと思うよ。十年後の自分の為に、出来る事をしながら、何かを作り出そうとする君の道を、今はただ真っ直ぐに進んで行って欲しい」  「ルビさん――――――」  淡い金髪をかきあげたルビさんのその言葉は、サネハルとは違った力で、ゆっくりとオレに満ちてくる。  「――――――はい。精進します」  今のオレに出来る事を、少しずつ。
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