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「咲夜、これからどうする?」
言いながら、ルビさんが取り出した懐中時計にその琥珀の視線を落とす。
「僕の方はまだ次の予定まで時間があるけど、一緒に食事でもする?」
「はい、ぜひ」
オレの答えを受けて、大輝さんがスマホを操作し始めた。
ルビさんの周りにいる人間は、こんな風にルビさんの指示や合図よりも先に自ら動く人材が多い。
ルビさんが秘書を置かない理由がそれなのか、だからこそ、こうなってしまったのか。
…これも、鶏か卵的な現状だけど、どちらにしても、与えられた役割を矜持として教育されているロランディの視点からすると、本宮グループ総帥としてのルビさんの在り方はかなり異質だ。
「咲夜はどうやってここまで?」
「あ、バスと電車乗り換えて」
「――――――そう」
オレの答えに、ルビさんは小さく笑い、大輝さんは動きを止めた…のは一瞬で、またスマホでのやり取りに戻る。
小さい頃から専属のボディガードを傍におき、スキップした大学への登校さえも専用車で移動していたルビさんサイドからするとこれも驚きの項目らしい。
ハリウッドスターは所詮エージェントと契約した個人に過ぎなくて、大企業や財閥系の子供より、そっちの方がリスクが少ないという錯覚に惑わされた奴らに、ルビさんは何度も誘拐されかけたと聞いている。
「…なんていうか、敢えて"室瀬"を名乗ってる仕事に、ロランディを手足として使うのはどうかなって。少しでも気持ちが引っかかるくらいなら、使わない方が良いって考えました」
補足すれば、ルビさんは"わかってるよ"と言わんばかりに口角を上げて頷いた。
「うん。まあ、そういう事に拘るのも、若い内かな」
「…」
「ん? 何?」
「いえ…、ルビさんの口から"若い"とか出るの、変な感じだな…って」
「――――――ああ」
クスクスと、笑うルビさんの瞳が意地悪に煌めく。
「なかなか貫禄がつかなくて困るよ、ほんと」
「あ、そういう意味じゃなくて」
「ふふ、それも解ってるよ、咲夜」
「…ルビ、咲夜さんを弄らないで下さい。――――――予約が取れましたので、ヘリポートまで移動をお願いします」
ヘリ…って、近場で軽くって、そういう食事じゃなかったのか。
財閥としての規模は確かにロランディの方が上だけど、世界観が全然違う。
これが当主と、まだ学生の身分である子息との違いだよな。
力も、権威も財力も、オレが持っているのは、ただロランディの名前から背後に聳え立つ張りぼてだ。
「――――――それにしても、黒髪にするだけで、まるで別人だね」
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