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言われて、オレは自分の視界の上に僅かに見える前髪に触れた。
それは、本来の金髪ではなく、カラームースで染めた色。
「いつもは髪の色や瞳の色が際立っていて、ずっとマダムに似ていると思っていたけれど、こうしてみると日本人に見えなくもない。顔立ちは父君に似ていたんだね」
「オレも、初めて染めた時は驚きました」
「その姿なら、日本語を流暢に話していても違和感はないね。――――――黒のコンタクトがあれば完璧かな。その青は、漆黒に合わせるには神秘的過ぎるよ。ベッドの上でなら、恋人が喜びそうだけど」
「何プレイですか、それ」
車の準備が出来たと大輝さんに声をかけられ、ルビさんが立ち上がったその後に続いて歩く。
「まだ続いてる? ――――――幾つか年上だったよね」
「三つです。まあ、何とか飽きられずに続いてます」
「年上の女性から学ぶことは多いからね。相手の意に沿う限り、全力で大切にするといいよ。ずっと先の未来が共にあってもなくても、必ず君の力になる筈だから」
そう言ってオレの肩に手を置いた、十四歳の頃には既にマダムキラーとして社交界で名を馳せていたルビさんは、未だ独身。
何度か会った事がある千愛理さんは間違いなく体の関係もある恋人らしいけど、結婚式への招待状はまだまだ先らしい。
「――――――はい」
訊けば、きっと答えはくれるだろうけれど、オレに何かを伝える時、ルビさんは自らの経験からも話してくれる。
必要な事なら、いつか自然に話は下りてくるだろうと、オレは久しぶりのルビさんとの心地いい時間を存分に楽しんだ。
――――――
――――
「資?」
個室の扉をノックする。
午前の授業を終えたランチタイム。
いつもなら、ネロの為に開けられている隙間が、こうして閉ざされているだけで普通じゃない。
「開けるぞ」
同じ選択科目の奴らの話によれば、資は間違いなく一限目には出席していた。
オレと一緒の次の地学には現れず、
「――――――資?」
ドアノブを廻せば、内鍵の障害はなくすんなりとドアは開く。
ただのさぼりならいいけれど、体調を崩していたら問題だ。
「んなぁ」
電気が点いたままの室内で、まずオレを出迎えたのは窓の前に座り込むネロ。
上がった下の隙間に向けて、カリカリと爪を立てている。
「お前、いたのか。――――――出たいのか?」
「なぁ」
音を立てて窓を上に持ち上げた途端、ネロは一直線に外に飛び出していく。
駆け出した先は、森の方だ。
「…あいつ、礼も無しかよ」
苦笑しながら、部屋の主がいない室内を見渡したオレは、端にあるものに思わず動きを止める。
「…なんだよ、これ…」
折り畳まれたダンボール。
その傍にあるスーツケース。
そしてそれには、クローゼットから、明らかにパッキングが始まっている。
「…資?」
波紋のような未知の衝撃が、オレの全身にゆっくりと広がった。
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