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淡々と口にしてみれば、資が一瞬だけホッとしたような顔をする。
何の相談もなく、後見人の意見を呑んだ資が決めた事だ。
相手が悪意を持った他人ならオレから言い出す事もやぶさかではないが、従兄とは仲が良いと聞いている。
身内だからこそ、ロランディの剣には頼らなかった、これは、資の決意で、
そして今、その想いをオレが理解し、同意した事を理解し合えた。
【連れてはいけない。…寂しいけど】
【…そうか】
足元に首筋を寄せてくるネロを今にも泣きそうな顔で見つめている資へと右手を差し出せば、何かを吹っ切るような素早で反応してきた。
【咲夜。色々とありがとう。咲夜のおかげで、良い時間が過ごせたよ】
【オレもだ。――――――元気でな】
引き寄せて、半ばハグのように背中を叩けば、
【――――――資?】
肩に乗ってきた資から小さな震えが伝わってきた気がして、胸が詰まる。
【――――――早く大人になりたい…】
その呟きがどんな想いで絞り出されたのか、解ったとしても、
【そうだな…】
そんな言葉でしか返せないオレも、どうしようもなく、まだ無力な監護下の子供だった。
――――――
――――
授業に課題、資格試験にビジネス。
次から次へとこなしている内に、資が日本へと旅立ってあっという間にひと月が過ぎていた。
株の動きをチェックしながら、来週が締め切りになっているレポートの仕上げに入る。
真夜中の静寂さに、キーボードを叩く音が大きく響いていた。
【――――――サクヤ?】
ベッドからの呼びかけに、振り向きもせず声だけで応える。
【悪い、うるさかったか】
【…ううん、目が覚めただけ。――――――あなたって、ほんと、ストイックに自分を甘やかさないのね。…いま何時?】
【二時、少し前】
【ん~、そろそろ戻らないと】
【――――――そうだな】
そこで初めて、ブラウンの髪をシーツ上に引きずるようにして体を起こした彼女へと視線を移す。
オレに見られている事を厭いもせず、枕の傍にまとめて置いてあった衣服の中から、下着を指先で引き抜く彼女の仕草を、頬杖をついて眺めていた。
綺麗だなと、素直に思う。
美術館に並ぶ、透明感のある風景画に魅入った時と似た感覚。
強く感情を揺さぶられる事はないけれど、穏やかに、好きだと感じる。
【次はいつ来る? 次の試験が確か――――――】
【その事なんだけど】
彼女が、インターラップしてくるのは珍しい。
まずそれに驚いて、思考が止まっていたオレに、彼女は更に追い打ちをかけてくる。
【明日からはもう会えないわ。今日で、お別れをしにきたの】
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