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――――――
――――
「――――――ほんとに、"置いて行かれた事"だけに、腹を立てていたんだな」
色んな意味の温かさを宿したルネさんの手の温もりを肩に思い出して嘆息する。
ロスに戻るというルネさんをヘリポートまで送った後、そのまま寮に戻る気にもなれず、裏の森に足を踏み入れていた。
彼女がいなくなったらいなくなったで、何も変わらなかった自分。
寂しさとか、遣る瀬無さとかは確かにあった。
けれど数日のうちに残ったのは、
"彼女から、何の相談も、前触れすらも無かった事"、
もしかしたら、
それを隠そうとしていた彼女の変化に、
"まったく気づいていなかった自分の未熟さの事"。
彼女を愛しいと思っていた筈の気持ちは、あっという間に霧散してしまっていた。
「――――――情…」
普段の大人びた綺麗さとは違う笑みを、オレにだけ見せる瞬間が愛しさの切っ掛けだった。
三つの年の差を埋めるように、キスも、前戯も、全力でいった。
「…わかんねぇな」
呟きを舞い上げるように、木々の間から風が吹く。
「戻るか…」
森林浴を続ける気分でもなくなって、踵を返そうとした時、
ふぎゃああああぁああぁっぁぁぁ
赤ん坊の泣き声のような、叫び、悲鳴、そんな声が耳に届いて、
「――――――ネロ?」
茂みから駆け出してきた、すっかり薄汚れたネロが、
みゅぎゃぁぁあ、
その後ろから追いかけてきたらしい一回り大きな茶トラの猫に、飛び掛かられて、押さえつけられる。
シューッ、シューッ、
ネロから激しく漏れる息。
その首の後ろに、茶トラは容赦なく噛みついて、どうやら発情真っ最中だ。
「…猫はアレが抜けないように中で棘になるから、メスはかなり嫌がるとは聞いた事があるけど…」
必死で逃げようとするネロを、茶トラは逃がすつもりはないらしく、全身と牙を使った押さえつけ方が半端なくなってきた。
「…でも」
動き出したオレに漸く気づいたらしいネロの目が、じわじわと大きく見開かれていく。
名前の由来になったその黒目の大きさに、初めてその目を見た時の、資の顔を思い出した。
と同時に、資を見上げる、こいつの顔も――――――。
「どう見てもさ、お前が不埒モンだよな、――――――Hey!Fuck off!」
声をあげて近寄れば、茶トラは飛び退いて一目散に茂みの向こうへと姿を消した。
「早…、――――――おい、大丈夫か?」
ぐったりとした様子のネロは、まだオレから視線を離さない。
見つめ合っていると、妙に伝わってくるものがある。
多分…、
オレに助けられた事には不満で、
けど暴漢から守ってくれた事には感謝していて、
でも、この事は資に言わないで――――――みたいな…?
「…オレも、相当毒されてるな」
一息吐いて、
「抱くぞ、引っ掻くなよ。シャワーで汚れ落として、傷も手当てしないと」
柔らかい腹に腕を廻して抱き上げながら善意で提案したオレに、シューッ、と小さな牙の隙間から返事が来る。
「…わかったよ。シャワーは誰か女子掴まえて頼むから、だから、綺麗になったら、ちゃんと飯食え。痩せすぎだ、お前」
弱っているのが、見た目でわかるくらいにやつれていた。
だからこそ、森の主的存在だった筈のこいつが、珍しくオスに目をつけられたんだろう。
「わかったな、――――――ユキ」
そう呼びかけても、ユキは顔を背けるだけで特に反論もなく、
「ったく…素直じゃないな」
どうやら、資と同じ呼び方をする許可は得られたらしかった。
――――――と思ったのは、どうやら勘違いだったらしく…、
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