MIDDLE NOTE

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 【――――――マリー、一体何があった?】  オレの胸に顔を埋めてひとしきり泣き、(ようや)く一呼吸つけたような様子が窺えたタイミングで透かさず声をかける。  するとマリーは、改めて深く息を吸って、か細く語りだした。  友人の婚約披露パーティに出席した際、正装のジェズが招待客の一人のパートナーとしてそこにいた事。  その招待客が、ジェズの事を婚約者だと周りに告げていた事。  泣きたくなる気持ちを堪えてお祝いを伝えに近づいたら、彼女に誤解されると困るから、二度と自分には親しく話しかけないで欲しいと言われた事。  【…ジェズが?】  到底信じられなくて思わず口を挟めば、マリーも吐く様に笑う。  【私も、最初は何を言われたのかよくわからなくて、…立ち尽くしちゃって…、だって、あのジェズが、あんなに、優しかったジェズが……でも、好きな人の為なら、そういう事も言えちゃうんだって、――――――そうやって頭の中をどうにか整理している内に、迷惑だって、とどめ、刺されちゃって、…ジェズの声で、…今まで、聞いたこともないくらい低い声で、そう言われたら、…足元…、崩れて…、わた、私、…もう、その場に、居られなくて…】  【…マリー】  また大粒の涙をこぼし始めた目の縁に、思わず指を添えて拭ってやる。  【わかった。わかったから】  【サクヤ…】  幸い、談話室には他に人の気配はなく、管理人の先生も距離があるから会話の詳細は聞こえていない筈だ。  【もうやめるの、やめたいの】  【マリー】  【サクヤなら、素敵だもの、みんな言うの、羨ましいって、サクヤが相手なら、きっと幸せになれるって】  【…マリー】  【いいでしょ? ――――――全部、忘れさせてよ…ッ】  駄々を捏ねるように首を振るから、そのたびにセットが崩れてサラサラとプラチナブロンドが落ちてくる。  オレの胸倉を強くつかむ両手の指が、微かに震えているのが伝わってくる。  【――――――マリー】  指の背で、掌で、止めどなく頬に流れる涙を拭った。  【綺麗なマリー】  【サクヤ…】  【可愛いマリー】  望みが叶う事を期待するマリーの目が、縋るようにオレを見つめてくる。  【本当はじゃじゃ馬で、敵には口が悪くて、それでも、――――――マリアン・ファディーニほど、気高くて強い淑女(レディー)は他にはいない。他では探せない。どこにもいない。特別な、ファディーニ家のお姫様】  【…サクヤ…どうして…?】  讃える言葉とは裏腹に、どんどん身体の距離を空けていくオレに、マリーは裏切られたと言わんばかりの表情を向けてきた。  【オレには、マリーは抱けない】  出来るだけ真摯な思いを込めてそう告げれば、マリーはゆっくりと首を振った。  【どうしてよ…、嫌、嫌よ。ねぇ、一度だけでいいの。それだけで、きっと前に進めるから】  【そんな抱き方なら猶更、したくない】  【……どうして…? やっぱり、私に、魅力がないから…?】  途方に暮れたように視線を迷わせるマリーの頭を、そっと撫でた。  【言っただろ? お前は綺麗だし、可愛い】  【でも、セックスは出来ないの…?】  【ああ。お前には出来ない。まったく別の次元で、とても、とても大切な存在だからだ】  【…】  【ずっと見てきた。お前のジェズに対する気持ちも、どうやって今まで頑張って来たのかも。…とても、誇らしく思ってるんだ、お前の事。――――――これは、…この気持ちは、家族に対する尊敬や、愛――――――そういうのと、同等だと、そう思う】  【…ぅ…】  【いつか――――――オレにパートナーが出来たとしたら、その人にも、マリーの事を家族のように思って欲しいから、こういう流れで体を繋げるのは避けたいし、――――――マリー】  両頬を包んで顔を上げさせれば、どうやら何を言われるのか察せたらしい。  【前に進みたいなら、ちゃんと砕けてこい】  【…ッ】
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