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じん、と。
温かいものがオレの内側に滲み湧く。
こういうサネハルの奥の深さが、オレが彼に誰よりも親しみを覚える理由。
主体性の無いただ見目好く着飾った上辺と、教科書通りの知識だけで作られた他人に囲まれる機会が多いオレにとって、サネハルの言葉は無条件に染みてくる。
どんなに離れていても、父さんが最後に頼る友人だと信頼する根拠はそこにあるんだろう。
「…いつか、会いたいな」
『――――――ああ。ぜひ日本に遊びにおいで。紹介するよ』
――――――
――――
毎日三十分。
積み重ねたトータル時間は他の先生と同じだけど、その密度は高かった。
パブリックスクールでの生活の基盤は、そこで出来た新たな友人達と、サネハルとの日課。
変化するのは、爆速で伸び続ける身長と、それによって常時抱える事になった体の痛み具合、空模様、風の匂い、そして株価とオレ個人の資産。
「ねぇ咲夜、インディア考察の資料、まだ持ってる?」
開けっ放しにしていたドアをノックしながら顔を覗かせたのは宮池資。
出会った一年前は、ただ可愛いらしいだけの見た目だったのが、骨格が出来てきたからか、少し前から性別問わずにプリンスと称ばれ始めたオレの親友だ。
確かに、そう呼ばれる雰囲気はあって、ゆったりとした目線の流し方とか、全身で奏でる所作もその所以。
「あー、悪い、ついさっきアンジーが持ってったばかりだ」
「そっかぁ」
「次はお前に回すようにラインしておく」
「よろしく」
周囲には穏やかな笑みを振りまきながら、けれど、自分へは枷のように厳しく棘を向かわせるという自虐的な性質の持ち主であることは、補足しておく。
気づいている人間は、ほとんどいないと思うけど。
「咲夜はこれからオンライン?」
「ああ。今日はいつもより時間かかると思う」
昨日、何の連絡も無しに授業に来なかったことをサネハルにきっちり説明して貰わないと。
「そっか。――――――その後はラウンジに行く?」
「そのつもりだ。これからレポートなんだろ? 途中で声かけるよ」
「うん。じゃあ後で」
寮のラウンジで、みんながカードゲームをするのを眺めるのが最近の資の趣味だ。
傍らに、ネロという真っ白な猫が寄り添うようになってからは特に、その毛並みを整えながら他人を眺めるのが最高のリラクゼーションになっているらしい。
資を見送ってドアを閉め、デスクに寄ってラップトップを開き、ツールを起動した。
オンラインになった途端、デフォのメールアプリが起動してきて自動送受信を開始する。
その動作を見ながら椅子に座り、体勢を整えた頃にはスタートアップに設定したコミュツールも起動完了、カメラがオンになって、ミュートを解除――――――…、
「――――――え…? なんだよ、これ…」
通知領域に表示されたメーラーからのメッセージに、オレは震える手で、叩くようにして机の端にあったスマホを握った。
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