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短縮で父さんへと発信する。
1コール、2コール、
「――――――ッ」
応答を待つ間に、クリックして最大化していた画面の文字が滲んできた。
頭の中で、無機質なコールが繰り返される。
それが何かを奪うように、だんだんと呼吸が苦しくなって、喉が詰まる――――――。
「なん、で…ッ」
それは、
そのメールの内容は、
不慮の事故でサネハルが亡くなったという報せで、
「なんで…!」
契約内容や事務処理については、改めて代理人から話をするという、悪戯とは思えないほど具体的なもので――――――…、
『――――――咲夜』
「…父さ、サネハルが」
『咲夜、これから日本に行ってくる。詳細が判ったら連絡するから』
「あ」
何も言わせてもらえないまま、容赦なく切られた通話に、親友を失った父さんの動揺が量れた気がした。
なんで、
どうして、
そればかり、頭の中を回っている。
"――――――また明日、咲夜"
もうすぐ紅葉の季節だと、遠くない未来の事を目を細めて話していた一昨日のサネハルが、オレが見た最後だった。
結局、父さんから連絡がきたのは日本から戻ってからで、トラックが歩道に乗り上げた事故に巻き込まれたらしいことや、家族を見ていられなかった事とか、落ち着いたら母さんも一緒に墓参りに行く予定だとか――――――そんな、ピースのような情報がぽつりぽつりと齎されただけ。
オレ以上に、深くサネハルを偲んでいる筈の父さんに、何をどう尋ねればいいのか一歩が踏み出せなくて聞き役でしかいられず、一方で、巻き込まれた子供を守ろうと行動したサネハルに、また一層、尊敬が積み上げられる。
『――――――日本語の講師は…どうする?』
どんな時でも、立ち止まるという選択肢は憚られる。
ロランディの執事あたりからそう言われて指示を求められているんだろう。
「…もう必要ないよ。ここには、実践で使える環境もあるし、…サネハル以上に合う先生がいるとも思えないし」
『…』
「…ハードル、上がるよね」
『そうか。――――――そうだな』
言葉に吐息を交えた父さんの声に、グツグツと、オレの中で何かが燻る。
「――――――友達が呼んでるから、もう切るよ」
『わかった。また連絡するよ、咲夜。体に気を付けて』
「…うん。父さんも。じゃあ」
通話が終わったと同時に、窓から差し込む日が陰った気がした。
スマホを無意味に見つめている内に、聞こえていた筈の寮内の喧騒が届かなくなる。
まるでこの部屋が真空にでもなったかのような錯覚が、床に垂直だった筈のオレの感覚をグラリと揺らした時、ドアが特徴を以ってノックされた。
オレの返事を待たずに、間髪入れずドアを開けるのもそれが誰かという次の証明。
【アンジー、勝手に入ってくるな】
【別にいいでしょ。イケない事をするには早すぎる時間じゃない。はい、資料】
【…資に回せって言った筈だ】
【あー、そうだっけ?】
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