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「篤の事は、昔からいつも心配だった。
ぐれてたのもそうだけど、高校も行かず、中学卒業後就職した工場もすぐ辞めてふらふらとしてて。
その後、AV関係のモデル事務所とか怪しげな会社で働きだして。
その仕事をやっと辞めたと思ったら、
パチンコ屋でアルバイトとかで。
こいつの将来大丈夫なのか?って」
川邊専務にそんな時代があったのは、
社内の噂話で聞いた事があったけども。
川邊専務の身近にいる斗希が語ると、
同じ話でも妙にリアリティがある。
「なのに、急に篤の実の父親が現れて、それが大会社の会長で。
篤の事を引き取りたいとか言ってて。
それに、篤にとって疫病神みたいな母親も、癌とかであいつが22歳の時に死んで。
ほんと、何かの物語の主人公のように篤の人生が急に輝かしい物になって。
大学だって、大検とってけっこういい所に合格して。
なんでこいつこんなツイてんだろって。
篤が今の会社入って、暫くしたら、昔から篤の事が好きだったとかいう、美人迄現れて。
その美人とデキ婚して、子供も三人…もうすぐ四人目って。
それを見てて、最初は本当に良かったって思ってたんだけど。
いや、今も思ってんだけど…けど、心の何処かで…」
斗希は、その先は口に出さなかったけど、
その感情は伝わって来た。
「だから、結衣が現れて、篤をああやって罠にハメて。
篤の困った顔見てて、心の何処かで楽しいと思っている自分も居て。
俺と結衣が急に結婚する事になって、その事で混乱している篤を見ていて、それも楽しくて」
"ーー斗希の奴、スゲェ楽しそうだったぞ。
お前と結婚するのーー"
その言葉の本当の意味が、やっと分かったような気がした。
その言葉を言った川邊専務本人は、斗希のその気持ちに迄は気付いてないのかもしれないけど。
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