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「斗希はあれだよね。
ずっといい子でいたから、その反動なんだろうね?
その反動で色々としてしまったんだろうね」
「いや。反動ってより、衝動かもしれない。
自分の中でずっとあったその衝動が、あの日…。
父親の部屋でDNAの鑑定書を見付けて、自分の中の何かが壊れて、自制が効かなくなった感じ。
円さんの事も、両親の事も。
それからも、色々。
我慢する事を辞めって感じだった」
衝動かぁ。
それ迄、斗希はずっと自分を押さえ込んで色々我慢していたんだ。
「結衣は、反動って感じだよね?
ずっと母親に押さえ込まれていて。
自分に価値がないのだと色々諦めていたけど。
その友達や眞山社長と深く関わって、愛される事を覚えて自分の価値に気付いて。
だから、そんな価値のある自分が裏切られたのが許せないと、過去の反動もあってよけいに眞山社長に深い憎しみを抱いてしまって…。
なんでか、その憎しみが俺に向いてるけど。
あの代理の話し合いの時の、俺の感じが、結衣の気に触ったんだっけ?」
何処か楽しそうに尋ねて来る斗希の顔を見ていると、
今は私の中にその憎しみがない事に気付いた。
「―――斗希が、私の大嫌いな兄に重なって見えてたのだと思う。
子供の時から、兄によく言われたの。
お母さんはお前の事なんか好きじゃないって。
何度も何度も…。
そう言って私を見下す時の顔。
あの時の斗希も、同じ顔で私を見ていた」
眞山社長に遊ばれていたのだと告げた、あの時の斗希の顔。
兄と同じだった。
「そう…」
斗希は私の答えに納得いったからか、私から視線を外して海に向けている。
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