結婚指輪

5/15
前へ
/268ページ
次へ
一つの本に、その手をかけた時。 斗希が、私の背後に立つのが分かった。 その背に、気配を強く感じる程の距離。 「俺、それまだ読んでないから、違うのにして」 その声が、耳元近くに聞こえる。 「いや…これがいい」 その本を引き抜こうとした時。 後ろから、抱き締められた。 私の手が本から離れて、力が抜ける。 「こんな風に、俺の部屋に入って来て。 嫌だって言っても、抱くけど?」 「別に、嫌だなんて言わないけど」 そのつもりで、私はここに来たのかもしれない。 斗希の手が、私の体を自分の方へと向けるように、ひっくり返す。 私の背が、本棚にあたる。 眼鏡を掛けている斗希と、目が合う。 胸の鼓動が段々と強くなり、恥ずかしくなって、 斗希から目を逸らしてしまう。 「俺も恥ずかしいから」 そう言って、眼鏡を外して、それを本棚に置いた。 「見えるの?」 「うん。少しぼやけるけど、近くはわりと見える」 「そう」 私が再び、斗希に視線を戻すと。 斗希の顔が近付いて来て、私は目を閉じた。 斗希の唇と私の唇が重なって、 柔らかさと温もりを感じた。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2672人が本棚に入れています
本棚に追加