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一つの本に、その手をかけた時。
斗希が、私の背後に立つのが分かった。
その背に、気配を強く感じる程の距離。
「俺、それまだ読んでないから、違うのにして」
その声が、耳元近くに聞こえる。
「いや…これがいい」
その本を引き抜こうとした時。
後ろから、抱き締められた。
私の手が本から離れて、力が抜ける。
「こんな風に、俺の部屋に入って来て。
嫌だって言っても、抱くけど?」
「別に、嫌だなんて言わないけど」
そのつもりで、私はここに来たのかもしれない。
斗希の手が、私の体を自分の方へと向けるように、ひっくり返す。
私の背が、本棚にあたる。
眼鏡を掛けている斗希と、目が合う。
胸の鼓動が段々と強くなり、恥ずかしくなって、
斗希から目を逸らしてしまう。
「俺も恥ずかしいから」
そう言って、眼鏡を外して、それを本棚に置いた。
「見えるの?」
「うん。少しぼやけるけど、近くはわりと見える」
「そう」
私が再び、斗希に視線を戻すと。
斗希の顔が近付いて来て、私は目を閉じた。
斗希の唇と私の唇が重なって、
柔らかさと温もりを感じた。
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