結婚指輪

9/15
前へ
/268ページ
次へ
朝、目が覚めると、 私は裸のままで、斗希に腕枕をされ、 後ろから抱き締められていた。 目の前にある、斗希の左手に私の右手を重ねると、 ゆっくりと握られて、驚いた。 「起きてるの?」 驚いて、訊いてしまう。 「うん。少し前に目が覚めた。 いつもこれくらいに起きてるから」 後ろから聞こえるその声に振り向きそうになるけど、 カーテンの隙間から漏れる朝日で明るいこの部屋で、 今、斗希と顔を合わせるのが恥ずかしい。 「あれだよね。 指輪買わないと。 結衣とお揃いの結婚指輪」 「え?」 斗希の左手の薬指を、触る。 私もそうだけど、そこには何もなくて。 「また、土曜日か日曜日に休み取る。 一緒に、買いに行こう」 「うん」 今まで、指輪の事なんて全く頭になかった。 もしかしたら、斗希は形式的に多少は頭にあったかもしれないけど。 お互い、それを必要に思わなかったから、 それを買うなんて考えなかった。 今、私はそれを必要としていて、 そう提案してくれた斗希も、私と同じだろうか? 「結衣、今日の朝御飯、ご飯と納豆だけでいい?」 そう訊かれ、思ったより朝寝坊したのかと思ったけど。 「朝から、もう一回していい?」 その言葉で、そういう事か、と思った。 斗希は既に私の胸に触れていて、それは始まっていて。 私も、そのままその流れに身を委ねた。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2672人が本棚に入れています
本棚に追加