不穏

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「なんで、梢ちゃんが謝るの? おかしい…。 だって、篤は結衣に嵌められて…」 私の心を代弁するような、斗希の言葉。 「もし、そうだとしても…。 その音声を聞いてたら、篤さんが結衣さんにした事は、同じ女として許せる事じゃない。 だけど、私…篤さんと別れたくない…」 梢さんの目から流れる涙も、その言葉も、私を苦しめる。 人を傷付ける事が、こんなにも苦しいなんて。 よくも悪くも、私は今まであまり人と関わって来なかったから、 それを知らなかった。 「梢ちゃん謝らないで。 全部、結衣が仕組んだ事だから。 俺、前に一度結衣からその音声と全く同じ物を聞かせて貰った。 それを録音したのは、結衣だから。 それを録音する為に、わざと篤に犯されているかのように。 ねぇ、結衣?」 私も思っていた。 先程聞かせて貰ったそれは、私が録音したそれと、全く同じものだと。 もし、先程川邊専務が言っていたように、盗聴器の可能性も全くないわけではないけど。 ただ、私が録音した部分と同じで、 音の聞こえ方も、全く同じで。 「どうせ、部屋に入る所も、誰かに撮らせたんだろ? ああ、あれ?よく利用してる興信所の人間にでも。 梢ちゃんにこれを見せ付けて、どうしたいの?」 私を見る斗希の目は、冷たくて。 私に、幻滅している事が分かる。
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