不穏

12/14
前へ
/268ページ
次へ
「―――違う…。 私は、知らない」 私じゃない、と首を横に振る。 横に居る斗希の手が私の首に伸びて来て。 そのまま、私は床に突き飛ばされ椅子から転がり落ちるような形になる。 そんな私の上に斗希が乗っていて、 両手で、私の首を絞めている。 それは、苦しい、というよりも、痛くて。 首の骨が折れるんじゃないかと、思った。 「斗希、辞めろ!」 その川邊専務の言葉と同時に、斗希が私から離れた。 斗希を見ると、川邊専務が後ろから斗希を取り押さえている。 「篤!離せっ!」 そう言って、斗希は暫く暴れていたけど、 少しして落ち着いたのか、抵抗を辞めた。 「―――離して。 篤達、もう帰ってくれない?」 「けど、お前…」 「大丈夫。落ち着いたから。 結衣には、もう暴力は振るわないから。 二人で話したい」 斗希のその言葉をいぶかしみながらも、 川邊専務は、斗希を拘束していた手を離した。 「斗希、また連絡する。 梢、帰るぞ」 川邊専務はそう言うと、梢さんの肩を抱き、リビングから出て行った。 遠くで、玄関の扉が開閉する音が聞こえた。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2663人が本棚に入れています
本棚に追加