不穏

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「斗希、本当に私じゃない。 私には、川邊専務の家庭を壊したい理由がない」 「けど、あの録音…」 斗希の言いたい事は、分かる。 あの録音は、私しか手にしていない。 先程よりも、盗聴器の可能性なんてないと、思う。 ただ、私はあの録音を、もう削除している。 それは、斗希に抱かれた翌日の日曜日に、 自分のスマホと、パソコンに送ったそのデータを、削除した。 だから、もう一度それを聞いて、川邊専務の元に送られて来たそれと同じものかを聞き比べる事が、出来ない。 ダイニングテーブルの上を見ると、 川邊専務は、先程の写真もICレコーダーも置いて行っている。 流石に、忘れ物だと休み明けに川邊専務に渡そうとは思わないけど、 このままこちらで処理していいのだろうか。 先程、斗希は円さんとの不貞の写真を持って帰って来た。 円さん夫婦も、川邊専務夫婦も、 そんな物を自分達の手元に置いておきたくないのだろう。 だから、今テーブルの上にあるそれらは、忘れたわけじゃない。
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