もう一人の復讐者

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「この部屋に入る前に、二人の人間に電話したの。 今すぐに、二人一緒に此処に来いって。 一人は、あなたの旦那の斗希さん。 今すぐに戻るって言ってたけど、本当に今日仕事だったの? スーツで出掛けたみたいだけど」 そうクスクスと笑っている。 その言葉を聞く感じ、このマンションから斗希が出て行ったのを、見ていたのだろうか? そして、その笑い方は、まるで斗希が仕事だと嘘付いて愛人にでも会いに行っているのでは?と言いたげで。 けど、もしかしたら、そうなのかもしれない。 今の斗希は、慰めや癒しが欲しくて、誰か女性に会いに行っていたのかもしれない。 色々知りすぎている私よりも、何も知らない女性と、何もかも忘れたように時間を過ごしたいのかもしれない。 「あの、二人って言いましたよね? 斗希以外にも、誰か呼んだのですか?」 それもそうだけど、そもそも、何の用事でこの女性は此処に来たのだろうか? 斗希の浮気相手では、ないみたいだし。 「もう一人は、北浦篤」 一瞬、それは誰かと考えたが、 川邊専務の事かと思い当たる。 そして、斗希とそうやって一緒に呼ばれた人間は、やはり川邊専務なのだと思った。 「私ね、あの二人と地元ってか、中学が一緒なんだ。 学年は違うんだけど。 だから、二人の噂は、大人になってからもちらほら耳に入って来んの。 あいつら地元では有名人だったから。 あの篤さんが実は父親が金持ちで…、とか。 斗希さんは、弁護士になっているとか。 最近も、篤さんの秘書と斗希さんが結婚したって。 あ、それは興信所が教えてくれたんだけど」 そう言って私を見ながら笑っている目に、 背筋がゾクリとして。 逃げないと、と頭の中で警笛が鳴る。 その女性は、持っていた鞄の中から包丁を取り出し、私に向けた。 鞄が床に落ちる音がするけど、私の視線は、包丁の刃に向く。
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