馨と薫

1/3
前へ
/3ページ
次へ
 僕は約束の時間より少し早めに、その場所に着いた。  穏やかな光が降り注ぐ、とある田舎町。映画で見たことのあるような、何十段もの階段が続く場所だ。  今日はここで待ち合わせをしていた。あることを実行に移すために…。  いよいよその日がやってきたのかと、僕は階段の最上段に座り、下を眺めながら思った。 「馨はほんとに来るだろうか」  僕は思った。  馨と出会ったのはSNSだった。  年齢も同じですぐに意気投合した。    僕はある重大な悩みを持っていた。  それは自分だけの悩みと思っていたのだが、馨も実は同じ悩みを持っているとわかった時はとっても驚いた。  しばらくして初めて直接会った時、その美しさに見とれてしまった。さらに「私、馨といいます」と言われて驚いた。  なぜなら僕も薫という名前だったからだ。漢字は違うけど同じ読みの名前、こんな偶然の一致なんてあるのだろうか。  お互い話すうち、僕は前々から思っていたあることを実行しないかと誘ってみた。 「そんなことがほんとにできるの?」 馨は聞いてくる。  無理もない。  僕が提案したことは常軌を逸した行動かもしれない。普通なら理解できることではない。ただ命をなくしてしまうだけかもしれない。  馬鹿げた話だが、僕は何度も夢の中でお告げを下されていたのだ。これをやればきっとうまくいくと…。  結局、馨も納得してくれた。  死にたくなるくらい悩んでいたからだ。藁にもすがる思いだったのだろう。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加