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柔らかな日差しがほおに降り注ぐ。
私は目を覚まし、顔を上げた。
目の前に伸び上がっていく階段があった。
すぐに何をしたかを思い出した。
どうやらちゃんと転げ落ちることができたようだ。
馨は大丈夫だろうかと周りを見てみる。
少し離れたところに倒れていた。馨もまたゆっくりと起きあがろうとしている。
私はとりあえず自分のことが気になった。
なんとか立ち上がり、自分の胸を触ってみる。
ふっくらとした感触があった。そして履いていたジーンズのボタンを外し、手を入れて股間に触れてみた。
変わっていない。よかった。女性のままだ。
「私、女の子よ。僕、ではない、ほんとうの薫よ」
ひとりで声に出してみる。
馨の方を見ると、同じように立ち上がり、私には背中を向けて体を確認している。
「どう?」
馨は振り向いた。
「ちゃんとついてるよ、男のままだ」
「私もよ。立派な大人の女性だわ」
「大成功だな」
「うん」
私は馨に抱きついた。涙が止まらなかった。
私は女として産まれながら、ずっと心は男であり続けた。いつもいつも女に戻りたいと思いながら、どこかで歯車が狂い、言動が男になってしまった。
馨は私とはまったく逆で、体は男なのに心は女から変われなかったのだ。
そんな馨と薫が知り合い、やっと今日、お互いの心を入れ替えることができたのだ。
「私、帰る。家へ帰って家族と話してみる。理解されないかもしれないけど、話してみるわ」
私は涙を拭いた。
「そうだな。僕もそうするつもりだ」
馨もしっかりと何かに立ち向かう表情をした。
私たちはもう一度階段を見上げた。
そしてまたいつかここに来ることがあるのだろうか、と思うのだった。
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